当直用・医療者向け
てんかん重積、麻酔薬・挿管に踏み切るか
分岐の軸は「年齢」でも「入院前ADL」でもなく、発作型 × 意識レベル
難治性重積545例のうち71.7%は挿管されずに治療され、52.7%が良好転帰だった(SENSEレジストリ)。
「難治だから麻酔」は自動的な帰結ではない。
① まず時間軸 — 最大のレバーは上流にある
t1=5分
第1選択BZDを十分量。
良好転帰のオッズ比 2.5(1.6-4.0)
▶
第2選択薬
LEV/fPHT/VPA に有意差なし。
60分後の停止は約半数(45-47%)
▶
RSE 確定
ここで判断する。
下表の病型で位置づけが変わる
※ t1=治療を開始すべき時点、t2=神経損傷など長期的帰結のリスクが生じる時点。
t1が5分・t2が30分と決まっているのはけいれん性重積だけで、他の病型はデータがない。
非けいれん性重積に「30分ルール」を機械的に当てはめる根拠はない(ILAE 2015/原著も「証拠は不完全」と明記)。
② 病型別 — 持続静注麻酔薬(CIVAD)の位置づけ
| 重積の病型 | 位置づけ | 根拠・注意 |
| けいれん性の難治性重積 | 正当化される | 生命を脅かす救急病態。ガイドラインの推奨はここから導かれる |
subtle SE (昏睡+発作性EEG・運動症状は軽微/欠如) | 正当化される | けいれん性の遷延形。第1選択ASMへの反応は15%(けいれん性は55%) |
| NCSE with coma | 個別化 | 転帰不良と関連するが、昏睡が発作由来か背景病態由来かを切り分けられない |
NCSE without coma (意識が保たれる) | 役割は乏しい | 転帰を決めるのは病因と併存症。循環不安定・長期人工呼吸のリスクが利益を上回りうる |
| 焦点運動発作性重積・EPC | 役割は乏しい | 同上。難治でも麻酔薬が使われること自体が稀 |
③ 予後を分けるのは意識レベル
| 臨床像 | 致死率 |
| 意識障害あり | 33% |
| 覚醒している | 8.2% |
| 両側強直間代発作のみで終わった症例 | 死亡ゼロ |
人口ベース研究(成人221例・年齢中央値69歳)。重積は高齢者の病態であり、
同レジストリでも年齢中央値は69〜70歳。
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④ 踏み切る前に確認する3つのゲート
1. 本当に非けいれん性重積か
Salzburg基準の陽性的中率は34%(感度94%/特異度77%)。基準を満たしても3例に2例はNCSEではない。偽陽性の多くは脳症・発作後状態。鎮静で脳症を覆い隠していないかをまず疑う。
2. 病因は治療しうるものか
病因別死亡率:自己免疫性脳炎 14.3%/てんかん 17.2%/脳腫瘍 63.6%。適切なASMで58.5%が改善。病因の可逆性が、投じるコストの見合いを決める。
3. 上流を尽くしたか
第1選択BZDの十分量投与は良好転帰のオッズ比2.5。治療逸脱はRSEへの進展と強く関連。非麻酔性ASMの積み増しは相当割合のRSEで依然有効。
⑤ 導入すると決めた後の4原則
1. 遅らせない
RSE確定後の導入遅延は一貫して転帰不良と関連する
2. 目標は発作停止
非低酸素性RSEで burst suppression の上乗せ効果は示されていない
3. 期間は最短に
24〜48時間は専門家合意にすぎない。延長は感染・離脱時発作・再発を増やす
4. 持続脳波で離脱
維持期・離脱期を通じたcEEG監視が必須とされる
⏱ 期間の最短化は、そのまま廃用対策である
ICU関連筋力低下は長期不動化と高齢が危険因子で、退室後2年まで持続しうる。予防の要は早期離床。発作を止めることと廃用を防ぐことは対立しない。
⑥ 年齢・入院前ADLの扱い(誤用が多い)
| 項目 | 入院前に機能障害あり | 機能障害なし |
| 治療制限の決定 | 35.7% | 12% |
| ICU死亡率 | 19.6% | 13.1%(有意差なし) |
| 1年後に機能が悪化しなかった割合 | 42.9% | 44.1%(ほぼ同じ) |
1年後の転帰不良と関連した因子(多変量):
致死的な併存症 2.92/脳の器質的障害 2.75/59歳超 2.36/難治性 2.19/入室時の臓器不全 2.08/
入院前の機能障害 0.61 = 有意差なし
差し控えの根拠に最もよく使われる因子が、最も予測力が乏しかった
入院前の機能状態は1年後の機能低下と独立して関連しない。見るべきは病因・意識レベル・臓器障害。ただし年齢自体は予後因子(59歳超 OR 2.36)で、「予後の見積もり」と「治療制限の基準」を混同しない。予後スコア(STESS/EMSE)は治療反応性を予測できない(PPV 32〜53%)。スコアで適応を決めない。
意思決定は重積が起きる前から始まっている。
神経集中治療で事前指示または代理意思決定者を持つ患者は中央値39%にとどまる。
高齢てんかん患者の平時の外来こそが、この話をする場。
出典(すべてPubMed収載・メタデータ照合済み):
Beuchat I, Neurology 2022;99:e1824/Fisch U, Front Neurol 2026;17:1805775/Leitinger M, Epilepsia 2019;60:53/
Vieille T, Epilepsy Behav 2023;141:109083/Trinka E, Epilepsia 2015;56:1515/Ulvin LB, Ann Clin Transl Neurol 2024;11:2685/
Uçan Tokuç FE, Neurol Int 2025;17:29/Giovannini G, Seizure 2017;46:31/Hermans G, Crit Care 2015;19:274/
Sutter R, Crit Care Med 2020;48:1188/Kapur J, N Engl J Med 2019;381:2103
※ 引用研究の大半は観察研究。薬剤の用量・投与速度は本資料では扱わない(各施設のプロトコルと添付文書に従う)。本資料は診療方針を保証しない。
監修:今村久司(神経内科専門医・指導医/総合内科専門医・指導医)
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