脳卒中急性期 診療実務

脳卒中急性期の降圧
ニカルジピン持続静注・内服移行の具体的手順

脳梗塞・脳出血における計算式・増減プロトコル・内服切り替えの完全実務

監修:今村久司(脳神経内科専門医・指導医)
背景と位置づけ

脳梗塞と脳出血:目標値の違い

脳梗塞(虚血性)

非再灌流: 220/120未満は原則下げない

rt-PA前: 185/110 未満へ降圧

血栓回収後: 180 以下へ(140未満は避ける

目的: 虚血ペナンブラの血流維持
脳出血(出血性)

発症早期: SBP < 140 mmHg 目標

• 血腫拡大予防のため速やかに降圧

• ただし SBP < 130 未満への過度降圧は避ける(ATACH-2試験)

目的: 早期の血腫拡大防止

👉 目標値は異なるが、ニカルジピン持続静注の実務・内服移行手順は共通!

第一選択薬

なぜニカルジピン持続静注が第一選択か

特長 1
速効性と調節性
投与後数分で降圧効果が発現。半減期が短く、速度調整によるコントロールが極めて容易。
特長 2
脳血管選択性
ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬。頭蓋内圧を著明に亢進させることなく脳血流量を保持しやすい。
特長 3
豊富なエビデンス
国内GL、AHA/ASA、ATACH-2、ENCHANTEDなど、急性期脳卒中RCTの標準薬として確立。
添付文書基準

国内添付文書のルール(希釈と開始量)

規格と希釈方法

• 製剤規格: 1 mg/mL(ペルジピン注等)

• 希釈: 生食または5%ブドウ糖で
0.01〜0.02%(0.1〜0.2 mg/mL)に希釈

※原液投与は添付文書外。静脈炎リスクあり施設規定要

投与速度の範囲

開始投与速度: 0.5 µg/kg/分

調整範囲: 0.5 〜 6.0 µg/kg/分

• 患者の血圧反応を5分毎に観察しながら調整

臨床計算

開始速度(mL/時)の計算式

開始用量の換算:
0.5 µg/kg/分 × 60分 = 30 µg/kg/時 = 0.03 mg/kg/時
0.2 mg/mL 希釈液(5倍希釈)
体重(kg) × 0.15 mL/時
(例: 60 kg × 0.15 = 9.0 mL/時
0.1 mg/mL 希釈液(10倍希釈)
体重(kg) × 0.30 mL/時
(例: 60 kg × 0.30 = 18.0 mL/時
早見表

体重別・濃度別 開始速度早見表

患者体重 0.2 mg/mL 希釈液(5倍) 0.1 mg/mL 希釈液(10倍) 原液 1.0 mg/mL(参考)
40 kg 6.0 mL/時 12.0 mL/時 1.2 mL/時
50 kg 7.5 mL/時 15.0 mL/時 1.5 mL/時
60 kg(標準) 9.0 mL/時 18.0 mL/時 1.8 mL/時
70 kg 10.5 mL/時 21.0 mL/時 2.1 mL/時
80 kg 12.0 mL/時 24.0 mL/時 2.4 mL/時
増減プロトコル

安全な投与速度の上げ方・維持

STEP 1
開始と測定
0.5 µg/kg/分で開始(60kg・0.2mg/mLなら9mL/時)。5分ごとに血圧測定。
STEP 2
段階的増量
目標上限を超えていれば、5〜15分間隔で0.5 µg/kg/分ずつ増量(9→18→27 mL/時)。
STEP 3
目標到達と維持
目標範囲に2回連続で入ったら増量を止め、最小必要速度で維持する。
安全性管理

減量ステップと緊急停止基準

安全な減量ステップ

• 目標下限に近づいたら 0.5 µg/kg/分 減量

• 効果減衰を待つため、15〜30分待機して血圧観察

• 頻回な減量は血圧変動(variability)を招くため避ける

直ちに中止・再評価するサイン

⚠️ 目標下限を割り込む場合

⚠️ 収縮期血圧が急に 20〜30 mmHg 以上低下

⚠️ 麻痺や意識など神経症状が悪化した場合

→ 直ちに停止し脱水・再閉塞・出血等を再評価
ガイドライン対比

AHA方式との比較と上限の違い

AHA/ASA方式(固定用量)

開始: 5 mg/時(持続静注)

増量: 5〜15分毎に 2.5 mg/時 増量

最大上限: 15 mg/時

国内添付文書の上限

• 上限 6.0 µg/kg/分(60kgで 21.6 mg/時

• AHA上限(15 mg/時)を大きく上回る!

• 機械的に国内上限まで上げず、10〜15 mg/時相当を目安に安全管理する。

投与前チェック

増量前に確認すべき6つのストレス要因

① 測定エラー
カフサイズの不適合、巻きの緩み、
血圧の左右差を確認
② 尿閉(膀胱緊満)
急性期に極めて頻度高。導尿で血圧が急低下することが多い
③ 疼痛・不穏
頭痛・麻痺部疼痛、せん妄、
体動による交感神経の緊張
④ 低酸素・発熱
気道閉塞、誤嚥、中枢性発熱・感染症による頻脈・血圧上昇
⑤ ルート不良
ライン閉塞、三方活栓の向き、
刺入部の薬液漏れや腫脹
⑥ 他の緊急病態
急性大動脈解離、急性冠症候群、
心不全などの合併を除外
病態生理とRCT

なぜ急激な血圧低下を避けるのか

脳梗塞(ペナンブラ虚血)

• 脳血管自動調節能が破綻している

• 血圧低下 = 脳血流の直接的低下

• 初期24hの降圧幅は約15%にとどめる

• 回収後も SBP < 140 は予後悪化(ENCHANTED2)

脳出血(腎虚血・過度変動)

• SBP < 140 は血腫拡大防止に有効

• しかし 110〜139 mmHg への過度降圧は腎イベント有意増(ATACH-2試験)

• 急激な過度降圧・変動を避ける

内服移行実務

内服薬への切り替えタイミング

再灌流療法後

24時間後CT/MRI
頭蓋内出血がないことを確認

• 神経症状・血圧が安定してから移行

非再灌流(脳梗塞)

• 発症 48〜72時間 待機

• 神経学的に安定してなお高血圧が続く場合に開始

脳出血

• 発症 24〜48時間 安定後

• 血腫増大がなく
全身状態が安定してから移行

安全性大原則

内服開始前の絶対条件:嚥下機能評価

⚠️ 水分・内服薬を口にする前に必ず嚥下スクリーニングを実施!
急性期脳卒中患者の不顕性誤嚥による「誤嚥性肺炎」は、生命予後および機能回復を著しく悪化させます(NICEガイドライン推奨)。
代表的スクリーニング
水飲みテスト(30mL)、反復唾液嚥下テスト(RSST)、改訂水飲みテスト(MWST)
嚥下障害がある場合
経口投与を無理に行わず、経鼻胃管等の投与経路または静注管理を継続。
薬剤選択

内服薬の選択と絶対禁忌

第一選択
長時間作用型Ca拮抗薬
アムロジピン(2.5〜5mg/日)など。立ち上がりが緩徐で血圧が安定。
慎重併用
RAS阻害薬・利尿薬
脱水・急性腎障害・血清K値に注意。利尿薬は全身安定後に考慮。
絶対禁忌
舌下ニフェジピン
急激で予測不能な過度降圧を招き、
脳虚血を悪化させるため絶対禁忌
離脱プロトコル

静注から内服へのオーバーラップ移行手順

STEP 1
内服開始+静注維持
内服薬を投与後、効果が立ち上がるまでの数時間はニカルジピン静注を維持
STEP 2
段階的漸減
内服効果発現を確認後、30〜60分間隔で 0.5 µg/kg/分 ずつ漸減していく。
STEP 3
中止後モニタリング
静注中止後もリバウンド(再上昇)がないか数時間血圧を監視する。
リスク管理

副作用・投与中の安全管理

注意すべき副作用

反射性頻脈: 交感神経刺激による脈拍上昇

過度な血圧低下: 脱水合併例で生じやすい

静脈炎・血管痛: 刺入部発赤時はルート変更

安全管理のポイント

• 心電図モニター・SpO2モニターを常時装着

• 輸液による適切な循環血液量(脱水補正)の維持

• 頭蓋内圧亢進症状(嘔吐・徐脈)の監視

まとめ

臨床現場で持ち帰るべき3つの原則

① 計算式を整理
0.5 µg/kg/分 = 0.03 mg/kg/時。
0.2mg/mLなら体重×0.15 mL/時、0.1mg/mLなら体重×0.30 mL/時
② 増量前に除外
尿閉・疼痛・カフ不良を先に是正。増減は5〜15分間隔、急激な変動を避ける。
③ 嚥下とオーバーラップ
嚥下テスト合格後に長時間作用薬を開始。静注と数時間重ねて段階的に離脱。
参考文献・出典

参考文献・ガイドライン

• 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕(日本脳卒中学会)
• rt-PA静注療法 適正治療指針 第三版(日本脳卒中学会)
• ペルジピン注射液 添付文書(PMDA)
• AHA/ASA 2019/2026 Acute Ischemic Stroke Guidelines
• AHA/ASA 2022 Spontaneous Intracerebral Hemorrhage Guidelines
• ATACH-2 (NEJM 2016) / INTERACT2 (NEJM 2013) / ENCHANTED2/MT (Lancet 2022)
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