医知創造ラボ

むせる人に「とろみ」
足す前に

誤嚥性肺炎を防ぐために、外来で先にやること

#039 監修:内科専門医 所要 約10分
今日の結論TODAY'S CONCLUSION

むせたら、とろみ?その前に、順番がある

結論
  • その場で誤嚥が消えることと、3か月後に肺炎が減ることは、同じではない。
  • 日本のガイドラインが肺炎の予防として推奨を出している介入は、口腔ケアだけ。毎食後に磨けるならそれがいちばんよく、難しければ1日2回を切らさない。
  • とろみは「かけて終わり」にしない。外せるかを定期的に評価する。そして禁食にしない、水を取り上げない。
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外来の30秒EVERYDAY SCENE

「最近、むせるんです」と
言われたら


診察室で、患者や家族からそう言われる場面は多い。

反射的に浮かぶのは、とろみを足すという指導かもしれない。

💭 立ち止まって考えたいこと

それは、本当に最初にすべきことでしょうか。

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同じ試験の2つの顔SAME TRIAL, TWO OUTCOMES

その場の誤嚥と3か月後の肺炎は一致しない

同じ無作為化試験(Protocol 201)の、嚥下造影による即時評価と、3か月間追跡した肺炎発生率。

検査ではその場で

誤嚥の消失がいちばん多かったのは濃いとろみ。次いで中間のとろみ、顎引き姿勢の順だった。

3か月後の肺炎は

顎引き姿勢ととろみ、中間のとろみと濃いとろみ。どちらも統計学的な差はなかった。

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3か月後の肺炎(1)3-MONTH PNEUMONIA

顎引き姿勢と、とろみで差はなかった

対象

50歳以上・認知症またはパーキンソン病・嚥下造影で薄い液体の誤嚥が確認済(n=515)

顎引き姿勢
0.098
とろみ(頭部中間位)
0.116

ハザード比 0.84(95%CI 0.49–1.45, P=0.53)=差なし

値は3か月累積肺炎発生率。

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3か月後の肺炎(2)3-MONTH PNEUMONIA

濃いとろみのほうが、件数としては多かった

対象

50歳以上・認知症またはパーキンソン病・嚥下造影で薄い液体の誤嚥が確認済(n=515)

中間のとろみ
0.084
濃いとろみ
0.150

ハザード比 0.50(95%CI 0.23–1.09, P=0.083)=統計学的に有意な差ではない

とろみ群では、脱水(6% vs 2%)・尿路感染(6% vs 3%)・発熱(4% vs 2%)も多かった(検定結果は報告されていない)。

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順番をつけるTHE ORDER

食形態をいじる前に、やることがある

1
口腔ケア毎食後、歯ブラシで擦り取る。絶やさない。
2
姿勢・一口量顎引き・少なめの一口。今日から試せる調整。
3
とろみかけて終わりにしない。外せるかを評価する。
4
禁食にしない食べない期間を作らない。水を取り上げない。
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①口腔ケアTHE ONLY RECOMMENDED INTERVENTION

日本のガイドラインが唯一、推奨を出した介入

"

肺炎の予防に口腔ケアを弱く推奨する

日本呼吸器学会『成人肺炎診療ガイドライン2024』CQ20(エビデンスの確実性 C・投票 単独72%)

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口腔ケアで何が減ったかWHAT IMPROVED

数字で見る、口腔ケアの効果


アウトカムリスク比(95%CI)エビデンスの確実性
初回肺炎発症RR 0.57(0.40–0.80)D(とても弱い)
肺炎による死亡RR 0.53(0.30–0.95)D(とても弱い)
全死亡有意差なし(RR 0.96, 95%CI 0.63–1.45)

対象は非挿管患者(RCT1編+観察研究6編の混合)。CQ全体の確実性はC。個別アウトカムの確実性はDである。

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「弱く推奨」の理由WHY "WEAK"

「弱く推奨」の理由は、2つある


理由① 実施可能性

マンパワー不足や、認知症・精神疾患を有する症例では、すべての患者に実施できるとは限らない。

理由② エビデンスの確実性

CQ全体の確実性はC(弱い)。個別アウトカムの確実性はD(とても弱い)。

この2つが、同時に「弱く推奨」の理由である。

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どこまでやるかHOW FAR

外来で渡す、具体的な指示


毎食後に磨けるなら、それがいちばんよい
難しければ、1日2回を切らさない
うがいだけでは、細菌の塊は落ちない
歯科につなぐ
入院患者のメタ解析では、1日2回とそれより高い頻度で効果推定値に差はなかった(対象は入院成人)。
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比べられているのはWHAT'S REALLY COMPARED

「磨くか、磨かないか」ではない


口腔ケアは「する・しない」で比べられている

実際は「専門職の手が入るか、本人がふつうに磨くか」の比較。

Cochraneは「口腔ケアなしと比べた試験は1件もない」としている。

⚠️ 注意して読む数値

0.12%クロルヘキシジン洗口を含む多要素介入の試験は、無効中止となった。日本では粘膜面への高濃度クロルヘキシジンは使用できない(禁忌)。

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②姿勢と一口量TODAY'S ADJUSTMENT

今日から試せる。
ただし肺炎を減らす根拠ではない

顎引き姿勢は、患者がいちばん受け入れやすい調整だった。

しかし3か月後の肺炎は、とろみ群と差がなかった。

体幹の角度(30度など)一次資料に到達できませんでした
食後の座位保持時間一次資料に到達できませんでした
スプーンサイズ一次資料に到達できませんでした
反復唾液嚥下テストの回数基準一次資料に到達できませんでした
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③とろみNOT "SET AND FORGET"

とろみは、「外せるか」を評価する

濃くするほど安全とは言えない。

だからといって、とろみをやめようという話ではない。

"

原則として,汁物を含む水分にはとろみ付けをすることを想定している

ただし,個別に水分の嚥下評価を行ってとろみ付けが不要と判断された場合には,その原則は解除できる

日本摂食嚥下リハビリテーション学会「嚥下調整食分類2021」Ⅰ-9

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④禁食にしない・水を取り上げないDON'T STOP FEEDING

食べない期間が、飲み込む力を落とす

暫定的禁食

13日

治療期間の中央値

早期経口摂取

8日

治療期間の中央値

発症前に経口摂取していた誤嚥性肺炎患者の後ろ向きコホート(IPTW法で調整)。

🍚 胃瘻についてよく聞かれること

胃瘻にすれば誤嚥性肺炎を防げるという証拠はない。

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いつ専門評価へ渡すかWHEN TO REFER

迷ったら、専門評価へ


誤嚥の半数は不顕性(むせない誤嚥がある)
ベッドサイド検査は、陰性でも誤嚥を否定できない
EAT-10は3点以上が異常(症状の重さを記録する質問票)
嚥下造影・嚥下内視鏡での評価を検討する。
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外来トーク例WHAT TO SAY

そのまま使える、外来の30秒

「むせるようになったんですね。

まず、とろみを足す前にやっておきたいことがあります。

食べたあとに歯をみがくことです。

歯や舌についた汚れが、寝ている間にのどへ落ちて肺炎の元になります。

毎食後にみがけるのがいちばんですが、難しければ1日2回を切らさないでください。

うがいだけでは汚れは落ちません。歯ブラシでこすり取ってください。

入れ歯の方は外して、歯ぐきと舌もやわらかいブラシでなでてください。」

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今日のまとめ

結論
  • その場で誤嚥が消えることと、3か月後に肺炎が減ることは、同じではない。
  • 日本のガイドラインが肺炎の予防として推奨を出している介入は、口腔ケアだけ。毎食後に磨けるならそれがいちばんよく、難しければ1日2回を切らさない。
  • とろみは「かけて終わり」にしない。外せるかを定期的に評価する。そして禁食にしない、水を取り上げない。

この動画は一般的な情報提供です。心配な症状があるときは、次の受診で相談してください。

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