医知創造ラボ

難聴と認知症

「補聴器で防げる」の根拠を一次資料で確認する

#03 監修:脳神経内科専門医
今日の結論TODAY'S CONCLUSION

難聴は最大の危険因子。ただし
補聴器で防げる」とはまだ言えない

結論
  • 唯一の大規模無作為化試験は、主要解析で差がつかなかった。
  • 「補聴器で認知症リスクが帳消し」の根拠は、2024年に撤回されている。
  • それでも勧める理由は、認知症以外のところにある。
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日本の現在地JapanTrak 2025

相談しても、半分以上が様子見で終わる


項目JapanTrak 2025
補聴器の所有率難聴者の 15.6%
(全人口の1.7%)
かかりつけ医に相談した結果56% が「特に行動する
必要はない」と言われた
耳鼻科医に相談した結果64% が同上

一方で、補聴器を持った人の 56% が「もっと早く入手すべきだった」と答えている。

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前提THE YARDSTICK: PAF

難聴は、14因子のなかで最大


📊 人口寄与割合(PAF)7%

Lancet 2024 委員会の14因子で最大。ただしPAFは集団の指標で、個人の確率ではない。

✖ 関連の強さ × ありふれ度

一人あたりの上乗せは控えめでも、難聴は60歳超の65%にある。だから集団では大きくなる。

「難聴を治せば認知症が7%減る」という意味ではない。

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CHAPTER 01

HOW STRONG IS THE LINK

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どれくらい
結びついているのか

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米国・639人を中央値11.9年Lin 2011, Arch Neurol

聞こえが悪いほど、段階的に高い


ベースラインの聴力全認知症のハザード比
(正常聴力との比較)
軽度難聴1.89(1.00–3.58)
中等度難聴3.00(1.43–6.30)
高度難聴4.94(1.09–22.40)

10デシベル悪化ごとに 1.27(1.06〜1.50)。
ただし高度難聴は6人のみで、区間が非常に広い。

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36研究・20,264人のメタ解析Loughrey 2018, JAMA Otolaryngol

デザインを変えると、数字が縮む


研究デザイン認知機能障害認知症
横断研究OR 2.00
(1.39–2.89)
OR 2.42
(1.24–4.72)
前向きコホートOR 1.22
(1.09–1.36)
OR 1.28
(1.02–1.59)

アルツハイマー病だけに絞ると 有意ではない(OR 1.69、0.72–4.00)。時間の順序を守ると関連は小さくなる。

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CHAPTER 02

THE ONLY LARGE TRIAL

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では補聴器
防げるのか

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70〜84歳・977人・3年間ACHIEVE / Lin 2023, Lancet

主要解析では、差がつかなかった


3年間の認知機能変化
(標準偏差単位)
補聴器介入(490人)−0.200(−0.256〜−0.144)
健康教育対照(487人)−0.202(−0.258〜−0.145)
0.002(−0.077〜0.081)
p=0.96

認知機能を主要評価項目に据えた、いまのところ唯一の大規模無作為化試験。

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事前規定の感度解析ACHIEVE / Lin 2023, Lancet

効いたのは、リスクの高い集団だけ


募集元特徴3年間の認知機能変化の差
ARIC
(238人)
高齢・危険因子が多い48%小さい
差 0.191(0.022〜0.360)
p=0.027
公募
(739人)
比較的健康差なし
−0.061(−0.151〜0.028)
p=0.18

⚠️ 対照群の 16.5% は試験外で自分で補聴器を入手していた。
(公募19.4% / ARIC 7.8%)比較の差は途中で薄まっている。

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CHAPTER 03

WHERE THE CLAIM CAME FROM

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「帳消し」は
どこから来たか

出どころは英国43万人の解析Jiang 2023 → RETRACTED 2024
"

この論文は 2024年に撤回された。
PubMedの出版タイプは
「Retracted Publication」。
撤回通知も掲載されている

Retraction: Lancet Public Health. 2024;9(1):e10.

解析コードの誤りで、補聴器を使っている人と使っていない人のデータが入れ替わっていたと報じられている(撤回通知の本文は未読)。

⚠️ 日本語の紹介記事はいまも残っている。出典の日付と撤回の有無を確かめる。

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31研究・137,484人のメタ解析Yeo 2023, JAMA Neurol

観察研究では、19%低い


アウトカム結果
長期の認知機能低下ハザード比 0.81(0.76–0.87)
短期の認知検査スコア比 1.03(1.02–1.04)=3%改善

ただし統合された31研究のうち 25研究は観察研究
補聴器を使う人はもともと若く、教育年数が長く、抑うつが少ない。
認知機能が落ちると使うのをやめる、という逆向きの説明もつく。

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米国2,946人・最長8年Ishak 2025, JAMA Otolaryngol

自覚では、リスクを拾えない


難聴の定義該当した人認知症の人口寄与割合
聴力検査66.1%最大32%(11.0–46.5%)
自己申告37.2%算出できず
(認知症リスクと関連せず)

同じ人・同じ期間・同じ手法。違うのは難聴の測り方だけ
「困っていないから大丈夫」は成り立たなかった。

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難聴のある60歳以上1,193人を10年Sugiura 2022, Auris Nasus Larynx

日本人でも、同じ方向


項目認知機能障害のオッズ比
聴力10デシベル悪化ごと1.36(1.21–1.53)
軽度難聴の群でも1.34(1.05–1.72)
中等度難聴で補聴器を常用0.54(0.30–1.00・p=0.049)

ただし観察研究であり、区間の上限は1.00に接している。補聴器の使用率は軽度難聴で0.7%、中等度以上で32.4%

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同じ試験の二次解析Goman 2025 / Reed 2025

勧める理由は、別のところにある


🚶 転倒が3年で27%少ない

介入 1.45回 vs 対照 1.98回、平均差 −0.54(−0.77〜−0.31)。両方の集団で一貫していた。

🤝 社会的つながり

3年で交流相手が1人多く残った。ただし論文自身が「臨床的に意味のある差かは不明」と書いている。

認知症を防げると約束できないことと、何もしなくてよいことは別。

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まとめSUMMARY

今日の3つの持ち帰り


01
測る

自覚では
リスクを拾えなかった。
まず聴力検査を。

02
使う

目的は認知症予防ではない。
会話と転倒、
生活の質のため。

03
続ける

日本のデータで
関連が見えたのは
「常に使う」人。

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