医療安全マネジメント 病棟管理指針

入院患者の私物管理ルール
紛失トラブル防止と気道迷入緊急対策

義歯・補聴器・眼鏡の紛失を防ぐ英国NHS指針4大原則と、万一の紛失時に見落としてはならない気道迷入スクリーニング

1. 臨床現場で頻発する私物紛失の実態

695
5年間の義歯紛失件数
英NHS多施設調査(弁償最大約44万円/個・Mann 2017)
1.41.5
補聴器喪失時の転倒リスク
感覚遮断によるせん妄・転倒誘発(Jiam 2023)
重大過失
病院の法的損害賠償責任
民法上の寄託契約・安全配慮義務違反
紛失の3大現場:①食事トレー(残飯と誤廃棄)、②シーツ交換時(リネン巻き込み)、③病棟移動・検査・手術時(移乗時の脱落)

2. 紛失トラブルにおける病院の法的責任判断

患者の自己責任

判断能力が保たれている場合
自己管理可能な患者が自己の不注意で紛失した場合、原則として病院側の賠償責任は否定されます。

安全配慮義務違反

認知症・せん妄等で管理困難な場合
管理能力低下を予見できたのに病棟側が適切な紛失防止策を講じず放置した場合、病院の法的過失(民法415条)が問われます。

寄託契約の善管注意義務

スタッフが一時預かりした場合
検査・手術時に看護師等が預かった時点で寄託契約が成立(民法400条)。紛失時は原則として病院に弁償義務が生じます。

3. 英国NHS指針に学ぶ病棟管理の4大原則

1 専用容器の配備と二重記名
  • ティッシュや紙コップ包みは絶対禁止(ゴミ誤廃棄の最大原因)
  • 専用ケースのフタと容器底面の両方に氏名・IDを明記
2 保管場所の厳格固定
  • 病室内の保管場所を床頭台の第1引き出し等に統一・固定
  • 食事中・睡眠時以外は必ず指定の場所に収納
3 転棟・検査・手術時の申し送り
  • 救急外来・ICU・病棟間転棟やCT・MRI検査時に携帯確認
  • 申し送りチェックリストに対象私物の有無を明記
4 入退院時の現物照合確認
  • 入院後24時間以内に私物持参状況をカルテ記録
  • 退院・転院時は現物とリストを突き合わせて家族と返却確認

4. 【最重要】義歯紛失発覚時の緊急プロトコル

⚠️ 単なる「紛失」と片付けない! 気道迷入・誤嚥の即座除外が最優先
高齢者や認知症患者が就寝中や食事前後に義歯を見失った場合、誤嚥・気道迷入による窒息死事故が報告されています。「どこを探しても見つからない」ときは直ちに画像検査を行ってください。
STEP 1
呼吸・バイタル確認
SpO2低下、喘鳴(ストライダー)、努力呼吸、チアノーゼの有無を即座に確認
STEP 2
口腔内・咽頭目視
ペンライトと舌圧子で口腔内・咽頭に義歯が引っかかっていないか慎重に観察
STEP 3 (最優先)
頸部・胸部X線 / CT
無症状でも気道・食道迷入を除外するため、速やかに単純X線または胸部CTを施行
STEP 4
病棟・リネン捜索
医学的安全を確認後、ベッド周囲、シーツ、ゴミ箱、配膳下膳車を網羅的に捜索