衝心脚気・消化器型脚気と、血中チアミン検査の限界
湿性脚気の典型像はしばしば欠ける。結果を待たず診断的治療へ踏み切る。
CHAPTER 1
感覚運動優位の軸索性多発神経炎。左右対称性でsural-sparingを欠く。
高拍出性心不全と下肢浮腫。劇症型の衝心脚気は難治性ショックと乳酸アシドーシスを来す。
腹痛・嘔吐・傾眠から試験開腹に至る例や、浮腫を欠く乳児肺高血圧クリーゼが存在する。
チアミン欠乏ではピルビン酸脱水素酵素(PDH)の活性低下により乳酸アシドーシスが生じる。脚気は「浮腫と乳酸アシドーシスを伴う心筋症」と記述される。
半減期は1〜12時間と短く、体内総量は約30〜50 mg(筋肉に約40%)。補給が途絶えると備蓄はおよそ数週間で枯渇する。
CHAPTER 2
| 鑑別項目 | 脚気ニューロパチー(乾性脚気) | Guillain-Barré症候群(GBS) |
|---|---|---|
| 経過 | 3週間以上の緩徐な経過をとることが多い | 数日から4週以内に急速にピークへ達する |
| 神経伝導検査 | 軸索性多発神経炎、sural-sparingを欠く | 脱髄性が主体、sural-sparingは高頻度 |
| 脳脊髄液検査 | 髄液蛋白は正常(蛋白細胞解離なし) | 蛋白細胞解離(蛋白上昇・細胞数正常)あり |
| 随伴所見 | 乳酸高値・体液過剰・眼振・錯乱を伴う | 先行感染や自律神経障害を伴う |
悪性貧血によるB12欠乏症が下肢脱力・しびれで発症し、軸索性末梢神経障害と診断された1例が報告されている。
急性の栄養障害を背景とする多発神経炎では、チアミン欠乏と同時にビタミンB12欠乏も検討する。
CHAPTER 3
高拍出性心不全は安静時CO>8.0 L/minまたはCI>4.0 L/min/m²と定義される。湿性脚気では教科書像と異なりEFが低下せず、むしろ過収縮を示す。
心エコーでEF 85%やLVEF 70%の過収縮が報告されている。心嚢液貯留と拘束性血行動態(CI 5.35)がチアミン100 mg/日静注後、約7時間で速やかに改善した症例もある。
敗血症でもアルコール依存でもない重症例で、乳酸値が23 mmol/Lに達する深い循環虚脱を呈した。
チアミン100 mg単回静注で数分以内に平均動脈圧が改善し、6〜48時間で代謝異常が是正された。
血管拡張性ショックにおいて、肺動脈カテーテルは高拍出状態(CI高値・低末梢血管抵抗)を迅速に確認する手段となる。
乳酸16.9 mmol/L、LVEF 70%の過収縮を示した衝心脚気例では、チアミン初回投与から2日以内に昇圧薬を離脱できた。
CHAPTER 4
81歳男性。腹痛・傾眠・低血圧で来院し、腸間膜虚血疑いで開腹されるも病変なし。乳酸は最高14.4 mmol/L。
チアミン200 mg/日静注を開始したところ、初回投与からわずか2時間でアドレナリンを離脱できた。
下腿浮腫や全身浮腫を欠き、多呼吸・陥没呼吸・頻脈で来院。心エコーで右心拡張と肺高血圧を認める。
肺高血圧クリーゼと急性脳症を呈した乳児例が集積されており、チアミン静注で劇的に改善した。
CHAPTER 5
血漿チアミンは体内のごく一部で、細胞内状態を反映しない。
TDPのばらつきは診断名より人種差の方が大きい。カットオフの合意もない。
外注検査で結果は遅れて届き、特異度も欠く。
Leiらが引用した989例の静注研究では、重大な反応は掻痒1例のみ。ビタミンB1は安全に投与できる。
日本のアリナミンF注電子添文において、「ウェルニッケ脳症」「脚気衝心」は正式な適応症であり静注が承認されている。
高拍出性心不全を呈し、左室駆出率は低下せずむしろ過収縮を示す。
非敗血症・非飲酒の難治性ショックや急性腹症様病態でもチアミン欠乏を疑う。
血中検査は特異度を欠き時間もかかる。唯一の確定的治療は急速静注トライアルである。