医知創造ラボ

原因不明の
乳酸アシドーシスを見たら

衝心脚気・消化器型脚気と、血中チアミン検査の限界

医知創造ラボ 監修:脳神経内科専門医 チアミン欠乏症シリーズ 第2回
今日のテーマTODAY'S POINT

「教科書の典型像」を待つと
診断と治療が遅れる

結論

湿性脚気の典型像はしばしば欠ける。結果を待たず診断的治療へ踏み切る。

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この動画でわかることAGENDA

本日のアジェンダ


1
病型の地図と代謝機序乾性・湿性・衝心・消化器型・乳児と、数週間での枯渇
2
乾性脚気の鑑別GBS・ビタミンB12欠乏との臨床所見・NCSの違い
3
湿性脚気と衝心脚気EFは低下しない高拍出性心不全と、難治性ショック
4
消化器型・乳児脚気急性腹症の模倣と、古典的浮腫を欠く小児重症病態
5
検査の限界と診断的治療血中チアミンは待てない。急速静注トライアルの根拠
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CHAPTER 1

第1章

脚気の病型地図と
代謝機序

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病型地図SECTION 05 — SUBTYPES

脚気は多彩な臨床像をとる


神経系

乾性脚気

感覚運動優位の軸索性多発神経炎。左右対称性でsural-sparingを欠く。

循環器系

湿性・衝心脚気

高拍出性心不全と下肢浮腫。劇症型の衝心脚気は難治性ショックと乳酸アシドーシスを来す。

非典型・小児

消化器型・
乳児脚気

腹痛・嘔吐・傾眠から試験開腹に至る例や、浮腫を欠く乳児肺高血圧クリーゼが存在する。

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06
代謝機序SECTION 06 — MECHANISM

PDH機能障害と
およそ数週間での備蓄枯渇


チアミン欠乏ではピルビン酸脱水素酵素(PDH)の活性低下により乳酸アシドーシスが生じる。脚気は「浮腫と乳酸アシドーシスを伴う心筋症」と記述される。

📋 体内備蓄の厳密な制約

半減期は1〜12時間と短く、体内総量は約30〜50 mg(筋肉に約40%)。補給が途絶えると備蓄はおよそ数週間で枯渇する。

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CHAPTER 2

第2章

乾性脚気と
GBS・B12欠乏の鑑別

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神経障害SECTION 08 — GBS DIFFERENTIAL

脚気をGBSより示唆する所見


鑑別項目 脚気ニューロパチー(乾性脚気) Guillain-Barré症候群(GBS)
経過 3週間以上の緩徐な経過をとることが多い 数日から4週以内に急速にピークへ達する
神経伝導検査 軸索性多発神経炎、sural-sparingを欠く 脱髄性が主体、sural-sparingは高頻度
脳脊髄液検査 髄液蛋白は正常(蛋白細胞解離なし) 蛋白細胞解離(蛋白上昇・細胞数正常)あり
随伴所見 乳酸高値・体液過剰・眼振・錯乱を伴う 先行感染や自律神経障害を伴う
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鑑別SECTION 09 — VITAMIN B12

ビタミンB12欠乏も
軸索性障害を来しうる


症例報告からの知見

典型的病像からの乖離

悪性貧血によるB12欠乏症が下肢脱力・しびれで発症し、軸索性末梢神経障害と診断された1例が報告されている。

臨床への示唆

同時評価の重要性

急性の栄養障害を背景とする多発神経炎では、チアミン欠乏と同時にビタミンB12欠乏も検討する。

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CHAPTER 3

第3章

湿性脚気と衝心脚気——
循環虚脱のサイン

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湿性脚気SECTION 11 — HIGH-OUTPUT HF

心不全なのに、
左室EFは低下しない


高拍出性心不全は安静時CO>8.0 L/minまたはCI>4.0 L/min/m²と定義される。湿性脚気では教科書像と異なりEFが低下せず、むしろ過収縮を示す。

📋 報告されている臨床データ

心エコーでEF 85%LVEF 70%の過収縮が報告されている。心嚢液貯留と拘束性血行動態(CI 5.35)がチアミン100 mg/日静注後、約7時間で速やかに改善した症例もある。

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12
劇症型SECTION 12 — SHOSHIN BERIBERI

非敗血症・非飲酒でも
難治性循環虚脱に陥る


4例の症例集積

重度乳酸アシドーシス

敗血症でもアルコール依存でもない重症例で、乳酸値が23 mmol/Lに達する深い循環虚脱を呈した。

静注への劇的反応

数分〜数時間での改善

チアミン100 mg単回静注で数分以内に平均動脈圧が改善し、6〜48時間で代謝異常が是正された。

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血行動態SECTION 13 — HEMODYNAMICS

高拍出状態を捉え、
早期に昇圧薬を離脱


血管拡張性ショックにおいて、肺動脈カテーテルは高拍出状態(CI高値・低末梢血管抵抗)を迅速に確認する手段となる。

📋 症例報告における経過

乳酸16.9 mmol/L、LVEF 70%の過収縮を示した衝心脚気例では、チアミン初回投与から2日以内に昇圧薬を離脱できた。

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CHAPTER 4

第4章

見逃されやすい
消化器型脚気と乳児脚気

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消化器型SECTION 15 — GI BERIBERI

栄養良好な高齢者が
試験開腹に至った症例


症例の背景と初発

非飲酒・栄養良好

81歳男性。腹痛・傾眠・低血圧で来院し、腸間膜虚血疑いで開腹されるも病変なし。乳酸は最高14.4 mmol/L

チアミンへの反応

初回2時間で昇圧薬離脱

チアミン200 mg/日静注を開始したところ、初回投与からわずか2時間でアドレナリンを離脱できた。

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小児領域SECTION 16 — INFANTILE

古典的浮腫を欠くため
見逃されやすい


母乳栄養児の心臓型脚気

浮腫を伴わない初発

下腿浮腫や全身浮腫を欠き、多呼吸・陥没呼吸・頻脈で来院。心エコーで右心拡張と肺高血圧を認める。

重症クリーゼ例

肺高血圧・ショック・脳症

肺高血圧クリーゼと急性脳症を呈した乳児例が集積されており、チアミン静注で劇的に改善した。

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CHAPTER 5

第5章

検査の限界と
「結果を待たない」診断的治療

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検査のピットフォールSECTION 18 — LIMITATIONS

血中チアミンは
信頼できる指標ではない


血漿の限界

体内状態と乖離

血漿チアミンは体内のごく一部で、細胞内状態を反映しない。

全血TDPの分散

人種差の寄与
10倍

TDPのばらつきは診断名より人種差の方が大きい。カットオフの合意もない。

時間的猶予

結果が
遅れて届く

外注検査で結果は遅れて届き、特異度も欠く。

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診断的治療SECTION 19 — THERAPEUTIC TRIAL

唯一の確定的治療は
チアミン急速静注のトライアル


高い安全性

ほぼ無害に投与可能

Leiらが引用した989例の静注研究では、重大な反応は掻痒1例のみ。ビタミンB1は安全に投与できる。

制度上の位置づけ

電子添文の正式適応

日本のアリナミンF注電子添文において、「ウェルニッケ脳症」「脚気衝心」は正式な適応症であり静注が承認されている。

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本日のまとめSECTION 20 — TAKE HOME

Take Home Messages


Point 1

湿性脚気は
EF正常

高拍出性心不全を呈し、左室駆出率は低下せずむしろ過収縮を示す。

Point 2

乳酸高値で
早期想起

非敗血症・非飲酒の難治性ショックや急性腹症様病態でもチアミン欠乏を疑う。

Point 3

待たずに静注

血中検査は特異度を欠き時間もかかる。唯一の確定的治療は急速静注トライアルである。

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