✚ 医知創造ラボ / 脳神経内科脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕・AHA/ASA 2026 に基づく
脳梗塞急性期の血圧 判断フロー医療従事者向け
分かれ目は「下げる/下げない」ではなく、再灌流療法を行うのか、行ったのか
そして再開通したあとは、下げすぎないことのほうが重要になった。
脳梗塞 急性期(発症数日以内・入院中)
分 岐 点
rt-PA 静注療法/血栓回収療法を行うか、行ったか
この1点で、降圧の可否と目標値が正反対になる
再灌流療法を
行わない
血圧が 220/120mmHg を超える状態が続いているか
= 収縮期 220 超 または 拡張期 120 超
NO
降圧しない
許容的高血圧。虚血巣周囲では自動調節能が破綻し、灌流圧=血圧になっている。下げると penumbra が失われる推奨度 D/エビデンスレベル 高
YES
慎重に降圧を考慮
米国のガイドラインは、血栓溶解を行わない場合に下げるとしても 15% 程度にとどめるとしている推奨度 C/レベル 低
推奨度 D は「曖昧だから下げない」ではない
エビデンスレベル 高で推奨度 D=質の高い証拠で「効かない」ことが分かっている、という意味。
CATIS・SCAST・13試験のメタ解析は、いずれも転帰を改善しなかった。
ただし、次があれば降圧する側にまわる
大動脈解離/急性心筋梗塞/心不全/腎不全 — 脳ではなく他臓器の適応で下げる。
低すぎるほうも害になる
著しい低血圧・循環血液量減少は、輸液・昇圧薬で速やかに是正する推奨度 A
再灌流療法を
行う/行った
rt-PA 投与 前
185/110mmHg 未満
これは目標値ではなく適応の可否を分ける線。降圧薬で維持できないなら、rt-PA を行わない。
rt-PA 投与 後 24時間
180/105mmHg 以下
測定間隔は 2時間まで15分毎2–8時間は30分毎8–24時間は1時間毎
降圧に用いる静注薬(例)
ニカルジピン 0.5〜6 μg/kg/分ジルチアゼム 5〜15 μg/kg/分ニトログリセリン 5〜100 μg/分(要遮光)
投与量は施設のプロトコルと添付文書で最終確認する。
血栓回収 後
180mmHg 以下へ速やかに
回収前の降圧は必ずしも必要ない推奨度 B
なぜ下限があるのか
回収後にさらに強く下げた 4つの無作為化試験ENCHANTED2/MTOPTIMAL-BPBEST-IIBP-TARGET)は、いずれも利益を示せなかった。メタ解析でも機能的自立は増えていない。
140
回収中・回収後に 140 mmHg 以下へ下げない推奨度 E
E は「行わないよう勧められる」。日本のガイドラインでは珍しい強さの否定。
出血を減らす目的で下げても、出血は減らず、低血圧だけが増えた。
24時間
神経症状が安定していれば、禁忌がない限り発症24時間以降に内服再開を考慮してよい推奨度 C
急いで戻す利益はない(COSSACS・ENOS)。嚥下障害・意識障害があれば、内服そのものが危険。ここから二次予防へ渡す。
脚注: 血糖
高血糖は是正し 180 mg/dL 未満を保つことを考慮してよい(推奨度 C)。
80–130 mg/dL の厳格管理は推奨されない(AHA/ASA 2026 も Class 3・低血糖リスク)。
注意: 同じ「140」が正反対の意味になる
梗塞の再開通後、140 は割ってはいけない下限
出血急性期では、140 未満が目指す目標疾患を取り違えると判断が反転する。
この図の使い方。これは入院中の急性期(発症数日以内)の血圧管理を整理したものであり、外来で降圧薬を服用中の方に中止を勧めるものではありません。
推奨度・目標値の出典は脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕および AHA/ASA 2026 で、本図はその要点を要約したものです(推奨文の転載ではありません)。個々の症例の判断、および薬剤の投与量は、施設のプロトコルと添付文書で最終確認してください。
監修: 今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)/医知創造ラボ
本図は医療従事者向けの一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
患者さんへ: 服用中の降圧薬を自己判断で中止しないでください。