「やめられますか」で始めない
お酒は、やめなくていい。
まず量を数える
節酒・減酒の外来サポート|内科医・かかりつけ医向け
外来患者指導テンプレート・シリーズ 第33弾
外来で最初に聞くのは「やめられますか」ではなく「どれくらい飲みますか」です。量を数え、減酒を治療目標として置き、急にやめてはいけない人だけを止める——外来10分で使える手順を1枚にまとめました。
1
数える
純アルコール量の式で1週間分を合計する
2
目標を置く
ゼロにしなくてよい。今より減れば効果あり
3
急にやめさせない
離脱のサインがある人は自己流の断酒を止める
1まず量を数える——「杯」ではなく「グラム」で
覚えてよい数字は、この式ひとつだけ
純アルコール量(g)
摂取量(mL)×アルコール濃度(度数/100)×0.8
例:ビール500mL(5%)の場合
500(mL) × 0.05 × 0.8 = 20(g)
0.8 はアルコールの比重。食品のエネルギー(kcal)と同じように、飲んだ量を数値にできます。(厚生労働省ガイドライン 2024年2月公表)
よく飲むお酒の換算(1ドリンク=純アルコール10g)
ビール500mL(5%)
20g
日本酒 1合
2ドリンク=20g
ビール大瓶 1本
2.5ドリンク=25g
ウイスキー水割りダブル 1杯
2ドリンク=20g
ワイングラス 1杯
1.5ドリンク=15g
焼酎お湯割り 1杯梅酒小コップ 1杯
1ドリンク=10g
※ ドリンク換算は学会の手引き(2019年小改訂)のAUDIT-C質問2から。まずは1週間の合計を出すところまでで十分です。
外来トーク例「お酒をやめましょう、という話ではありません。まず、どれくらい飲んでいるか一緒に数えさせてください。
「男性40g・女性20g」は、許容量ではない
🚫 「ここまで飲んでよい量」ではなく、「ここから下げていく出発点」
生活習慣病のリスクを高める量=1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上・女性20g以上。この数字は、減らす対象を決めるための目安であって、安全ラインではありません。
厚生労働省ガイドラインの原文
「※これらの量の飲酒をしている者の減少を目標としたものです。なお、これらの量は個々人の許容量を示したものではありません。
📌 少しの飲酒でもリスクが上がる病気がある
ガイドラインの表1では、高血圧(男女)食道がん(男性)「0g<」少しでも飲めばリスクが上がると示されています。「1日ビール2杯までなら安全」という説明は、ガイドラインの読み違いです。
※ 表1はすべて日本人研究に基づく
📌 1回で飲みすぎる日をつくらない
一時多量飲酒1回の飲酒機会で純アルコール摂取量60g以上)は、外傷の危険性も高めるものであり、避けるべきです——週の合計だけでなく、「一晩でどれだけ飲むか」も見ます。
外来トーク例「男性で1日40g、女性で20gを超えると、生活習慣病のリスクが上がります。ただしこれは、ここまで飲んでいい、という量ではありません。ここから下げていく出発点です。
2目標は「断酒」でなくていい
📖 学会の手引き(2019年小改訂)の原文
軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースで、患者が断酒を望む場合や断酒を必要とするその他の事情がある場合を除き、飲酒量低減が治療目標になります。
📖 効果は「40g・20gに届いたか」で判定しない
しかしながら、この目安に達しなくとも、治療開始時よりも飲酒量が低下し、飲酒に関係した健康障害や社会・家族問題の軽減が認められる場合、飲酒量低減による治療の効果が認められたと判断できます。
外来トーク例「ゼロにしなくて構いません。今より減れば、それは効果があったと判断してよいことになっています。まず、週に何日休むかを決めましょう。」
自らの飲酒状況等を把握する
あらかじめ量を決めて飲酒をする
飲酒前又は飲酒中に食事をとる
飲酒の合間に水(又は炭酸水)を飲むなど、ゆっくり分解・吸収できるようにする
一週間のうち、飲酒をしない日を設ける
飲んだ量を書き出す「飲酒日記」続けてもらう
※ ①〜⑤は厚生労働省ガイドライン「健康に配慮した飲酒の仕方」より。治療の主体は薬ではなく、こうした心理社会的な支援です。
自分で急にやめてはいけない人がいる
🚨 「今日から一滴もやめます」を、そのまま帰さない
下の4つのどれかが当てはまる人は、自己判断で急にやめると危険です。やめ方・減らし方を必ず医療者と決めます。
お酒を止めたときにけいれんを起こしたことがある
幻が見えた(振戦せん妄)ことがある人も同じです。「前にも起きたこと」が、最も信頼できる予測因子とされています。
🤲
朝、手がふるえる
すでに離脱の症状が出ている状態です。「二日酔いだから」と片づけないでください。
💧
寝汗・眠れない日が続く
飲まない時間が長くなると出てくる不眠・発汗も、離脱のサインです。
🍶
朝や日中に「迎え酒」をしている
つらさを抑えるために飲んでいるなら、体はすでにお酒に依存しています。
⏱ やめた後、いつ起きるか
離脱によるけいれんは、最後の一杯から6〜48時間に現れます(その90%以上は48時間以内)。振戦せん妄(幻覚・強い混乱)は48〜72時間に始まります。「やめた直後は大丈夫だった」は、安全の根拠になりません。
外来トーク例「その気持ちは大事にしたいのですが、今日いきなり全部やめると、かえって危ないことがあります。前に、お酒を止めたときにけいれんを起こしたり、幻が見えたりしたことはありませんか?朝、手がふるえることは?——減らし方を一緒に決めましょう。」
3減らすと、何が変わるか
🩺 血圧
もともと多く飲んでいる人ほど、減らすと血圧が下がります。1日2杯(1杯=純アルコール12g)以下の人では、減らしても血圧ははっきりとは下がりませんでした。
🫀 肝機能・体重
1か月お酒をやめた人では、血圧・体重・インスリンの効きが改善しました。
くじ引きで割りつけた研究ではなく観察研究の結果です。
💓 脈の乱れ(心房細動)
大きく減らす・やめると、心房細動の再発が減りました。
この研究の目標は「断酒」で、実際に週16.8→2.1ドリンクまで減っています。「少し減らせばよい」根拠にはなりません。
😴 睡眠
「寝酒」は眠りを浅くします。飲酒量が多いほど睡眠時無呼吸のリスクが高いことも報告されています。
🔴 顔が赤くなる体質の人
飲むと顔が赤くなる体質は日本では41%程度いるとされます。「飲めるようになった」人ほど、口の中のがんや食道がんのリスクが高くなります。
⚖️ ただし、元通りではない
減らせば血圧・肝機能・体重は動きます。ただし、これまで飲んできた分がゼロになるわけではありません。
📞 相談先
依存症対策全国センター全国の相談窓口・医療機関を検索できます
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map
出典: 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(令和6年2月19日公表)/ アルコール健康障害対策推進基本計画(第3期・令和8年3月)/ 新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドラインに基づいたアルコール依存症の診断治療の手引き(日本アルコール・アディクション医学会/日本アルコール関連問題学会・2018年12月第1版/2019年7月小改訂)/ Jesse S, et al. Acta Neurol Scand. 2017;135(1):4-16(PMID 27586815)/ Goodson CM, et al. Alcohol Clin Exp Res. 2014;38(10):2664-77(PMID 25346507)/ Roerecke M, et al. Lancet Public Health. 2017;2(2):e108-e120(PMID 29253389)/ Mehta G, et al. BMJ Open. 2018;8(5):e020673(PMID 29730627)/ Voskoboinik A, et al. N Engl J Med. 2020;382(1):20-28(PMID 31893513)/ Simou E, et al. Sleep Med. 2018;42:38-46(PMID 29458744)/ Yokoyama T, et al. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2003;12(11 Pt 1):1227-33(PMID 14652286)/ Witkiewitz K, et al. Alcohol Clin Exp Res. 2017;41(1):179-186(PMID 28019652)
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