「むくみには弾性ストッキング」と言う前に
弾性ストッキングを勧める前に、
足の脈を触る
両下肢浮腫(両足のむくみ)の外来指導|内科医・かかりつけ医向け
外来患者指導テンプレート・シリーズ 第30弾
両下肢浮腫の外来でつまずくのは、①両側だからと静脈のせいに決めつける②薬剤性を見ずに利尿薬を足す③足の脈も心臓も確認せずに圧迫を勧めるの3か所です。原因別の網羅的な鑑別ではなく、振り分けと共通の生活指導を1枚にしました。
1まず、片足か両足か——そして心臓・肺を聞く
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片足だけなら、その日に評価する
急な腫脹・疼痛・暗赤色 鮮紅色の発赤・熱感
暗赤色=静脈うっ滞(DVT)鮮紅色=炎症性(蜂窩織炎)が色調の目安。静脈うっ滞は挙上で色が薄くなり、炎症性は挙上で変わりにくい。ただし下腿蜂窩織炎は259人中79人(30.5%)が誤診で、うっ滞性皮膚炎が最大の擬態。
JCS 2017 p.57/Weng 2017
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「両足だから血栓ではありません」とは言えない
わが国のDVTでは両側性の下肢腫脹は9.1〜18.4%で、確率は下がるが否定はできない症状単独の診断精度も低く浮腫は感度97%/特異度33%)、診断精度の高い症状はない
JCS 2017 p.57
🫀
心不全は、症状と身体所見に分けて聞く
症状=息切れ(典型的)/起坐呼吸・発作性夜間呼吸困難・前屈呼吸苦(Bendopnea)(非典型的)。
体うっ血の特異的な身体所見=頸静脈怒張・末梢浮腫・体重増加(>2 kg/週)外来では「週1回・同じ条件で測り、1週間で2kgを超えたら連絡」に落とす。
心不全診療GL2025 表12(PDF p.31)
📌 「両足=静脈」と決めつけて、心臓・肺が見落とされていた古典的な報告
プライマリケアの両下肢浮腫の患者で、初診時の臨床印象は静脈不全32人(71%)・うっ血性心不全8人(18%)だったのに対し、検査の結果は心疾患がむくみの原因15人(33%)/肺高血圧あり19人(42%)/静脈不全10人(22%)だった。
n=45・単施設・1998年の報告で、有病率としては一般化できない。3つの割合は相互排他ではなく原文が書き分けており合計は100%にならない)、「肺高血圧」は心エコーによる推定推定肺動脈収縮期圧>30 mmHg=現行の定義より緩い基準持ち帰るのは「両足=静脈と決めつけると心臓・肺を見落とす」という教訓まで。(Blankfield 1998)
2お薬手帳を先に見る——薬が原因なら利尿薬は効かない
DHP系Ca拮抗薬
アムロジピン/ニフェジピンを服用する高齢者の最大10%開始1年以内に末梢浮腫。用量が上がるほど多い。
ガバペンチノイド
ガバペンチン/プレガバリンの最大5%開始1年以内に末梢浮腫。増量後の発現が多い。
NSAIDs
ナトリウム貯留により浮腫の頻度を倍にする市販薬でも使われている。
ピオグリタゾン
体液貯留・浮腫を起こし、一部で心不全を顕在化・増悪させる。(頻度の数値は示されていない)
血管拡張による浮腫は、利尿薬に反応しない。誤診は処方カスケードや不要な検査につながる。利尿薬を足す前に、原因薬を止める・減らす・変えるを先に考える。
Therapeutics Letter 162 (June 2026)/Vukadinović 2019/Bełtowski 2013
弾性ストッキングの前に確認する5点——動脈だけではない
🩺動脈
両足の脈(足背動脈・後脛骨動脈)を触る
圧迫療法を始める前に動脈の状態を確認する。足の脈・足関節の脈が弱いか触れなければ、ストッキングを出す前にABIを測る(Rabe 2020 Rec 12)。日本語GLも「下肢脈拍,冷感の確認など動脈血行の評価を着用前に施行する」(JCS 2017 p.65)。
触診は「触れない人を拾ってABIに送る」ふるいであって、除外の決め手ではない。医師が両足背・両後脛骨動脈を触診し大腿部血管雑音も聴診してABI≦0.90 を陽性としたとき、感度は58.2%(Armstrong 2010)。触診者・陽性の定義・参照基準が違えば感度は大きく変わる。高齢・糖尿病・石灰化では偽陰性が増える(Herráiz-Adillo 2018)。「脈が触れたから動脈は大丈夫」とは言わない。
🫀心臓
重症心不全では圧迫しない
NYHA IV には推奨しない/NYHA III ではルーチン使用を推奨しない(Rabe 2020 Rec 17)。日本語GLも「重症うっ血性心不全の患者では…心不全増悪などのリスクを慎重に評価する必要がある」(JCS 2025 p.57)。
→ 外来の言葉では 息切れが強い・急に体重が増えている(>2 kg/週)あいだは、脈が触れても始めない。先に心不全の評価をする両下肢浮腫の外来には心不全が相当数含まれる。
🦶糖尿病
足の感覚が鈍い人に、自己判断で履かせない
知覚脱失を伴う重度の糖尿病性ニューロパチー皮膚壊死リスクのある細小血管症禁忌(Rabe 2020 Rec 21)。締めつけすぎや圧迫創が起きても本人が気づけない。日本語GLも認知・知覚機能の低下、皮膚の脆弱性を要注意とする(JCS 2025 p.57/JCS 2017 p.65)。
🔥急性炎症
赤く腫れて熱いあいだは、その足に自己判断で始めない
急性炎症(蜂窩織炎など)の併発例では疼痛を増悪させる可能性があり、リスクを慎重に評価する必要がある(JCS 2025 p.57/JCS 2017 p.65)。まず感染の評価が先。
両論がある:国際コンセンサス Rec 19 は方向が逆で、丹毒・蜂窩織炎に対して抗菌薬併用下での圧迫の追加をsuggest している(Rabe 2020)。本図は保守側(日本のGL)を採るが、「圧迫は禁止」と断定はしない治療と並行して圧迫を行う判断は医療者がする。
🧤材料
圧迫材へのアレルギーを一言聞く
圧迫材への確認されたアレルギーは禁忌(Rabe 2020 Rec 21)。「以前、着圧のソックスやサポーターでかぶれたことはありますか」と聞くだけでよい。
🚨 5つは AND 条件——脈が触れても、残り4つが残っている
「足の脈が触れたから弾性ストッキングを出してよい」とは言えない。動脈・心臓・糖尿病の神経障害・急性炎症・材料アレルギーの1つでも当てはまるあいだは、始めない患者への言い方:「足の脈・心臓・糖尿病の神経の状態・皮膚を確認してから始めます。市販の着圧ソックスを自己判断で買って履き始めないでください」(数値は医療者側で持つ)
ABI の数値は3段階で区別する(混ぜると事故になる)
ABI 0.90 以下 = 主幹動脈の狭窄・閉塞を疑う
診断の入口。安静時ABIは異常低値(0.90以下)ボーダーライン(0.91〜0.99)正常(1.00〜1.40)異常高値(>1.40)に区分される。(2022年改訂版 末梢動脈疾患GL p.14)
ABI<0.9 = 禁忌ではなく「慎重に経過を見る」
国際コンセンサス Rec 14 は ABI<0.9 の患者では圧迫が下肢の血流に及ぼす臨床的効果を注意深くモニタリングするとしている。禁忌と混同しない。(Rabe 2020)
使用を控える/禁忌のラインは、両論を併記する
日本:ABI<0.5 または足関節圧<60 mmHg で使用を控える(JCS 2025 p.57。※この数値は「圧迫療法(急性期)」=DVT急性期の節にあり、日常のむくみの禁忌ラインを直接示した記述ではない)/国際コンセンサス Rec 21:ABPI<0.6・足関節圧<60 mmHg・足趾圧<30 mmHg・経皮酸素分圧<20 mmHg(Rabe 2020)。どちらか一方だけを基準として使わない。
境界の扱いも異なる日本のGLは「0.90以下」、国際コンセンサスは「0.9未満)。ABI 0.90 前後の症例を、どちらか一方の数字だけで裁定しない。
💬 「何mmHgを選べばいい?」と聞かれたら——書ける数値はDVT・血栓後症候群・静脈性潰瘍の文脈のものだけ。急性期は25 mmHgが選ばれる傾向、慢性期は着脱の容易な20〜30 mmHg症状改善は足関節18 mmHg以上から、潰瘍治療は足関節40 mmHg以上を目標(JCS 2025 p.57–58)。「日常のむくみに何mmHgが最適か」を示した一次資料はない。
3共通の生活指導と、断定しないこと
渡してよい(害がない・説明がつく)
下肢挙上——座って足を台に上げる時間を1日のどこかに作る
長時間の同じ姿勢を中断する——静脈が健常でも立位15分で下腿容積は平均63 mL増える
週1回・同じ条件で体重——1週間で2kgを超えて増えたら連絡
スキンケア——潰瘍予防に重要。うっ滞性皮膚炎は保湿とステロイド外用
足首の運動——「やって害はない」水準で勧める
断定しない(一次資料なし/逆の報告)
両足だから血栓ではない——両側性でも9.1〜18.4%
脈が触れたから動脈は大丈夫——低い報告では感度58.2%
ふくらはぎを動かせばむくみは取れる——2試験54人・very lowで効果は未証明
むくみには塩分◯g まで——心不全ですら適切な塩分摂取量のエビデンスは確立していない。個別化する
ストッキングでむくみが◯%減る——浮腫アウトカムは low-certainty
出典: 2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会/日本血管外科学会 合同)p.14 / 2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン(日本循環器学会ほか)p.57–58 / 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017年改訂版)p.57・p.65 / 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(日本循環器学会/日本心不全学会 合同)表12 / Rabe E, et al. Phlebology. 2020;35(7):447-460(PMID 32122269)/ Perry T. Therapeutics Letter 162 (June 2026)(NBK623779)/ Blankfield RP, et al. Am J Med. 1998;105(3):192-7 / Vukadinović D, et al. J Hypertens. 2019;37(10):2093-2103 / Bełtowski J, et al. PPAR Res. 2013;2013:628628 / Armstrong DW, et al. Can J Cardiol. 2010;26(10):e346-50 / Herráiz-Adillo Á, et al. Int J Clin Pract. 2018;72(11):e13253 / Weng QY, et al. JAMA Dermatol. 2017;153(2):141-146 / Araujo DN, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;12:CD010637 / Clarke MJ, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;4:CD004002 / Junge F, et al. Vasa. 2022;51(2):78-84 / Trayes KP, et al. Am Fam Physician. 2013;88(2):102-10 / Ely JW, et al. J Am Board Fam Med. 2006;19(2):148-60
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