✚ 医知創造ラボ / 認知症×生活習慣病シリーズ 第7弾

飲酒と認知症
答えは「どうやって調べたか」で
変わります

この図は、お酒をすすめるものではありません。
そして、いま飲んでいる方に急にやめるようすすめるものでもありません。

1「少量なら脳に良い」は本当ですか

「少量なら脳に良い」という話と、「少しでも脳には悪い」という話が、どちらも研究の結果として流れています。どちらの数字も本物です。食い違って見えるのは、何を測ったかが違うからです。

1
認知症になった人の数を追いかけた研究では、少しだけ飲む人がいちばん少なく見えます。グラフがJの字に見えるので「Jカーブ」と呼ばれます。
2
ところが、脳のMRIを撮って比べた研究では、少ない量の段階から脳が小さいほうに傾いています。「少量なら良い」という結果は出ていません。
3
生まれつきの遺伝子の情報を使って調べる方法でも、少量が脳を守るという結果は出ていません。この方法は、生活習慣の影響が入り込みにくいのが特徴です。

数字と論文名は、動画・記事のほうに載せています

2同じ問いに、3つの答えが並びます
① 発症率で調べる
少量がいちばん低い
何万人もの生活を長く追いかけ、認知症になった人を数えます。少量の人がいちばん低く出ることが、くり返し報告されています。
② 脳の画像で調べる
少量から不利に傾く
MRIで脳の大きさを測ります。飲む量が多いほど小さいほうへ傾き、少ない量の人でもすでに傾き始めていました。
③ 遺伝で調べる
守る証拠が出ない
生まれつき決まっている遺伝子を手がかりにする方法です。少量が認知症を防ぐ、という結果は得られていません。
この図でいちばん伝えたい一文

どれかが間違っているのではなく、測っているものが違うのです。飲酒と認知症の話は、「どれだけ飲んだか」より先に「どうやって調べたか」で答えが決まります。

3「飲まない人」に混ざっている人たち

研究で「飲まない人」とまとめられたグループには、一度も飲まなかった人と、以前は飲んでいて、体を悪くしてやめた人の両方が入っています。この2つを分けて見ると、景色が変わります。

1.61倍
日本の大規模調査で、ずっと飲まなかった人の認知症の起こりやすさ。(週に75 gより少ない人と比べた値です)
2.54倍
同じ調査で、以前は飲んでいて、やめた人。飲まないから高いのではなく、やめる理由のほうが先にあったと考えられます。

出典: 日本のJPHC研究(Shimizu 2023, Int J Geriatr Psychiatry・42,870人・飲酒評価から発症まで平均14.9年)

ただし、これで全部は説明できません

60歳を超えた15の研究の個人データをまとめた解析では、一度も飲まなかった人と、やめた人とのあいだに認知症の起こりやすさの差はありませんでした(0.98倍)。また、英国の研究で心臓や血糖の病気がない人だけに絞ると、飲まない人の高さは1.33倍まで弱まり、偶然の範囲を出ませんでした(0.88〜2.02倍)。

「飲まない人のほうが危ない」とは読めません。混ざっている人の影響は大きいのですが、それだけで全部が片づくわけでもない、というのが正直なところです。

出典: 15研究24,478人の個人データ解析(Mewton 2023, Addiction)/英国ホワイトホールII 23年追跡(Sabia 2018, BMJ)

4はっきりしているのは、こちら側です

少ない量のところは、調べ方によって答えが割れます。けれどもたくさん飲む側では、どの調べ方でも同じ向き——不利に出ます。ここは割れていません。

✓
発症率を追った研究でも、ある量を超えると認知症は増えるほうへ向きます。
✓
脳の画像でも、量が増えるほど脳の体積は小さいほうへ傾きます。
✓
お酒の問題で入院した記録を集めた研究では、若い年代で発症した認知症との関連が報告されています。
それでも「やめれば防げる」とは言えません

お酒を飲む人と飲まない人をくじ引きで分ける試験は、行うことができません(人に飲酒を割りつけることは、倫理的にできないためです)。ですから言えるのは「リスクを下げる可能性がある」ところまでで、「防げる」とは言えません。

5日本の基準は、どうなっていますか
純アルコール量(g)=
お酒の量(ml)× 度数 ÷ 100 × 0.8
度数5%のビール500 mlなら、500 × 0.05 × 0.8 = 20 g です。
缶や瓶に「純アルコール量」が書かれているものも増えました。
「男性40 g・女性20 g」は、飲んでよい量ではありません

厚生労働省のガイドライン(令和6年2月)は、生活習慣病のリスクを高める量として男性40 g以上・女性20 g以上という数字を示しています。同じガイドラインには、「これらの量は個々人の許容量を示したものではありません」と書かれています。

つまりこれは「ここまでは大丈夫」ではなく、「ここから下げていく出発点」の数字です。適した量は、年齢・体格・持病・飲んでいるお薬によって、一人ひとり違います。

出典: 厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(令和6年2月19日)

6よくある心配
Q
「少しなら、飲んだほうがよいのですか?」
いいえ。脳のためにお酒を始める理由はありません。Jカーブは発症率を追った研究で見えているもので、脳の画像と遺伝の調べ方は、少量が脳を守るという結果を出していません。
Q
「では、いますぐやめたほうがよいですか?」
毎日飲んでいる方が自己判断で急にやめると、危険なことがあります(体の震え・発汗・けいれんなどが起こる場合があります)。減らし方も、やめてよいかどうかも、まず主治医にご相談ください。
Q
「お酒で記憶が飛ぶのは、認知症の始まりですか?」
別のものです。飲んだあと記憶が抜ける「ブラックアウト」は、その場で脳が記憶を作れなくなる一時的な現象です。心配なときは、回数と量を控えることが先になります。
7結局、どうすればよいか
増やさない
脳のために飲み始める理由は、
いまのところ見あたりません。
多い側から減らす
はっきりしているのは、
多く飲むほど不利という側です。
やめ方は主治医と
急にやめると危ない方がいます。
ひとりで決めないでください。
この図の数字について。ここで扱った研究はほとんどが観察研究で、飲酒をくじ引きで割りつけて比べた試験ではありません。したがって「少量なら脳に良い」ことも「やめれば認知症を防げる」ことも、証明されてはいません。示されているのは関連です。
飲酒量はすべて自己申告で、実際より少なく申告されやすいことが知られています。また、認知症の危険因子は14あり、すべてなくせたとしたら認知症の約45%が減る(かもしれない)という推計があります。そのうち過度の飲酒の分は1%とされていますが、これは集団のものさしで、一人ひとりの大きさではありません。
監修: 今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)/医知創造ラボ
本図は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
飲酒の可否・減らし方・中止の判断は、担当の先生にご相談ください。服用中のお薬を自己判断で変えないでください。