✚ 医知創造ラボ / 認知症×生活習慣病シリーズ 第8弾(まとめ回)

動脈硬化と認知症
「アルツハイマー型」と「血管性」は
分けられません

この図は、動脈硬化が認知症の「原因」だと証明するものではありません。
そして、血管を守れば認知症を防げると証明するものでもありません。

1認知症を「2択」で考えていませんか

「アルツハイマー型」か「血管性」か——どちらか一方だと考えていませんか。実際の脳を調べると、多くの場合、両方の変化が同時に見られます。この図は、剖検データからそれを確認していきます。

2剖検でわかったこと——141人の追跡

米国の研究チームは、地域に暮らす高齢者141人を生前から年1回評価し、死後に脳を調べました(Schneider 2007)。急性・慢性の脳異常がなかったのは20人(14.2%)でした。

認知症のあった50人の内訳割合(人数)
アルツハイマー病理+脳梗塞38.0%(n=19)
純粋なアルツハイマー病理30.0%(n=15)
血管性認知症12%(n=6)
アルツハイマー病理+パーキンソン病/レビー小体病12%(n=6)

いちばん多かったのは、純粋なアルツハイマー病理ではなく「アルツハイマー病理+脳梗塞」でした。141例の剖検コホートの実数です。一般人口の割合ではありません。

2.8倍
複数の病理を同時に持つ人は、単一の病理だけの人に比べ、認知症を呈するオッズが年齢調整後で約2.8倍でした(95%CI 1.2〜6.7)。信頼区間の幅が広く、値の精度は高くありません。
50%超
認知症のあった50人のうち、50%超が複数の病理を同時に持っていました。認知症のなかった91人では、80%超が1つ以下でした。

出典: Schneider JA, et al. Neurology. 2007;69(24):2197-2204.

3病理があっても、発症していない人がいる
本弾でいちばん誠実な数字

認知症のなかった91人のうち、24.2%(n=22)は純粋なアルツハイマー病理を持っていました。慢性病理の異常がなかった人は28.6%(n=26)、梗塞があった人は17.6%(n=16)でした。

病理があることと、認知症を発症することは同じではありません。複数の病理が併存すると、認知症が臨床的に表面化する「閾値」を下げると考えられています(Kapasi 2017・レビュー論文。ここから数値は出ていません)。

4血管の変化そのものも、認知機能に関連する

1,143人(死亡時年齢の中央値88.8歳)を対象にした研究では、脳の動脈硬化・細動脈硬化と、アルツハイマー型認知症との関連を調べました(Arvanitakis 2016)。

血管の変化オッズ比(95%CI)
動脈硬化(大きな血管)OR 1.33(1.11〜1.58)
細動脈硬化(細い血管)OR 1.20(1.04〜1.40)

重症度が1段階上がるごとのオッズ比。アルツハイマー病理と脳梗塞を調整してもなお関連が見られました。APOE ε4遺伝子型や血管危険因子で調整しても結果は変わりませんでした。

ただし、これは「横断研究」です

「動脈硬化があるから認知症になった」という時間の前後関係は示されていません。著者自身も、血管病理は「気づかれていない危険因子かもしれない(might be)」と書くにとどめています。

対象は死亡時年齢の中央値88.8歳という、きわめて高齢な人の集団です。一般人口の代表ではありません。

出典: Arvanitakis Z, et al. Lancet Neurol. 2016;15(9):934-943.

5日本ではどうか——久山町の20年

福岡県久山町では、65歳以上の住民を対象に1985・1992・1998・2005年の4回、認知症の有病率を調べています(Sekita 2010)。

有病率(年齢・性で調整)1985199219982005
アルツハイマー型1.1%1.3%2.3%3.8%
血管性認知症2.3%1.5%1.5%2.5%
血管性/アルツハイマー型 比2.11.20.70.7

P for trend はアルツハイマー型 <0.001、血管性は0.82(有意な傾向は検出されていません)。

血管性認知症は「減ったとは言えない」

血管性/アルツハイマー型の比は2.1から0.7へ動きましたが、比が逆転したのは「血管性が減ったから」ではなく、「アルツハイマー型が増えたから」です。血管性認知症そのものの有病率は、20年間で「減ったとは言えない」(P for trend = 0.82)。「血管性認知症は過去のもの」という語りは、このデータでは支持されません。

出典: Sekita A, et al. Acta Psychiatr Scand. 2010;122(4):319-325.(有病率であり、発症率ではありません。1つの町のデータです)

6それでも、「防げる」とは証明されていない
証明されていないこと

血管を守れば認知症を確実に防げると証明されたわけではありません。くじ引きで血管の危険因子への介入を割りつけ、認知症の発症を比べた大規模な試験(SPRINT MIND)では、厳格な降圧で有意に減ったのは軽度認知障害であり、認知症そのものでは有意差が出ていません。

それでも手を打つ理由

これらの血管の危険因子を持つ人で、認知症のリスクが高いことは、複数の観察研究で示されています。ただし、これは「危険因子を持つ人でリスクが高い」ことであって、「手を打てばリスクが下がる」ことの証明ではありません。

7結局、何が言えるのか
分けられない
認知症の脳は、たいてい
アルツハイマー型と血管、
両方の変化を持っています。
別ルートで効く
血管の変化は、
アルツハイマー病理とは
別に認知機能と関連します。
防げるとは言えない
それでも、血管の因子に
手を打つ理由はあります。
個別の数値は各弾で。
この図の数字について。主軸のArvanitakis 2016は横断研究で、対象は死亡時年齢の中央値88.8歳という、剖検に同意したきわめて高齢な人の集団です(一部は聖職者コホート)。一般人口の代表ではありません。Schneiderの141例は認知症50例と症例数が小さく、OR 2.8の95%信頼区間は1.2〜6.7と非常に広いものです。久山町のデータは1つの町の有病率であり、発症率ではなく、診断基準・画像診断の普及の影響も受けます。ここで扱った研究はほとんどが観察研究で、示されているのは関連であり、介入で認知症が減ることの証明ではありません。第1〜7弾で扱った血圧・LDL・血糖などの個別の数値は、それぞれの回に譲ります。
監修: 今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)/医知創造ラボ
本図は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
血圧や血管の状態が気になるときは、自己判断せず、担当の先生にご相談ください。