この図は、動脈硬化が認知症の「原因」だと証明するものではありません。
そして、血管を守れば認知症を防げると証明するものでもありません。
「アルツハイマー型」か「血管性」か——どちらか一方だと考えていませんか。実際の脳を調べると、多くの場合、両方の変化が同時に見られます。この図は、剖検データからそれを確認していきます。
米国の研究チームは、地域に暮らす高齢者141人を生前から年1回評価し、死後に脳を調べました(Schneider 2007)。急性・慢性の脳異常がなかったのは20人(14.2%)でした。
| 認知症のあった50人の内訳 | 割合(人数) |
|---|---|
| アルツハイマー病理+脳梗塞 | 38.0%(n=19) |
| 純粋なアルツハイマー病理 | 30.0%(n=15) |
| 血管性認知症 | 12%(n=6) |
| アルツハイマー病理+パーキンソン病/レビー小体病 | 12%(n=6) |
いちばん多かったのは、純粋なアルツハイマー病理ではなく「アルツハイマー病理+脳梗塞」でした。141例の剖検コホートの実数です。一般人口の割合ではありません。
出典: Schneider JA, et al. Neurology. 2007;69(24):2197-2204.
認知症のなかった91人のうち、24.2%(n=22)は純粋なアルツハイマー病理を持っていました。慢性病理の異常がなかった人は28.6%(n=26)、梗塞があった人は17.6%(n=16)でした。
病理があることと、認知症を発症することは同じではありません。複数の病理が併存すると、認知症が臨床的に表面化する「閾値」を下げると考えられています(Kapasi 2017・レビュー論文。ここから数値は出ていません)。
1,143人(死亡時年齢の中央値88.8歳)を対象にした研究では、脳の動脈硬化・細動脈硬化と、アルツハイマー型認知症との関連を調べました(Arvanitakis 2016)。
| 血管の変化 | オッズ比(95%CI) |
|---|---|
| 動脈硬化(大きな血管) | OR 1.33(1.11〜1.58) |
| 細動脈硬化(細い血管) | OR 1.20(1.04〜1.40) |
重症度が1段階上がるごとのオッズ比。アルツハイマー病理と脳梗塞を調整してもなお関連が見られました。APOE ε4遺伝子型や血管危険因子で調整しても結果は変わりませんでした。
「動脈硬化があるから認知症になった」という時間の前後関係は示されていません。著者自身も、血管病理は「気づかれていない危険因子かもしれない(might be)」と書くにとどめています。
対象は死亡時年齢の中央値88.8歳という、きわめて高齢な人の集団です。一般人口の代表ではありません。
出典: Arvanitakis Z, et al. Lancet Neurol. 2016;15(9):934-943.
福岡県久山町では、65歳以上の住民を対象に1985・1992・1998・2005年の4回、認知症の有病率を調べています(Sekita 2010)。
| 有病率(年齢・性で調整) | 1985 | 1992 | 1998 | 2005 |
|---|---|---|---|---|
| アルツハイマー型 | 1.1% | 1.3% | 2.3% | 3.8% |
| 血管性認知症 | 2.3% | 1.5% | 1.5% | 2.5% |
| 血管性/アルツハイマー型 比 | 2.1 | 1.2 | 0.7 | 0.7 |
P for trend はアルツハイマー型 <0.001、血管性は0.82(有意な傾向は検出されていません)。
血管性/アルツハイマー型の比は2.1から0.7へ動きましたが、比が逆転したのは「血管性が減ったから」ではなく、「アルツハイマー型が増えたから」です。血管性認知症そのものの有病率は、20年間で「減ったとは言えない」(P for trend = 0.82)。「血管性認知症は過去のもの」という語りは、このデータでは支持されません。
出典: Sekita A, et al. Acta Psychiatr Scand. 2010;122(4):319-325.(有病率であり、発症率ではありません。1つの町のデータです)
血管を守れば認知症を確実に防げると証明されたわけではありません。くじ引きで血管の危険因子への介入を割りつけ、認知症の発症を比べた大規模な試験(SPRINT MIND)では、厳格な降圧で有意に減ったのは軽度認知障害であり、認知症そのものでは有意差が出ていません。
これらの血管の危険因子を持つ人で、認知症のリスクが高いことは、複数の観察研究で示されています。ただし、これは「危険因子を持つ人でリスクが高い」ことであって、「手を打てばリスクが下がる」ことの証明ではありません。