心房細動(心臓の上の部屋が細かく震える不整脈)のある人では、臨床的な脳梗塞を起こしていなくてもその後の認知症が多い——という関連を、複数の大規模観察研究が示しています。では「薬でそのリスクを下げられる」のでしょうか。それを検証したランダム化試験(くじ引きで2つのグループに分けて比べる試験)は、すべて外れています。この図では、その両方を数字で追います。
心房細動は、Lancet誌2024年委員会の「認知症の変えられる14の危険因子」には含まれていません。したがって「心房細動の人口寄与割合(PAF)」という数字は存在しません。ただしこれは「気にしなくていい」という意味ではありません——次章以降のとおり、証拠がここまでしか進んでいない、ということです。
出典: Papanastasiou CA, et al. J Gen Intern Med. 2021;36(10):3122-3135.
観察研究のメタ解析であり、因果関係を示すものではありません。「心房細動があるから認知症になる」と読み替えることはできません。
| 研究 | 結果 |
|---|---|
| 脳卒中の既往を考慮(メタ解析) | RR 1.34(95%CI 1.13–1.58) |
| 虚血性脳卒中を含め調整(ARIC-NCS・20年追跡) | HR 1.23(95%CI 1.04–1.45) |
| 臨床的脳卒中で打ち切り(Rotterdam研究) | HR 1.33(95%CI 1.02–1.73) |
出典: Kalantarian S, et al. Ann Intern Med. 2013;158(5 Pt 1):338-46./Chen LY, et al. J Am Heart Assoc. 2018;7(6):e007301./de Bruijn RF, et al. JAMA Neurol. 2015;72(11):1288-94.
Rotterdam研究の内訳では、67歳未満はHR 1.81と有意だった一方、67歳以上はHR 1.12(95%CI 0.85–1.46)で有意ではありませんでした。また「打ち切った」のは臨床的に診断された脳卒中のみで、症状のない脳梗塞は打ち切れていません。
脳卒中・一過性脳虚血発作(TIA)の既往がない心房細動の人1,390人を調べた研究の結果です。参加者の90%は抗凝固薬を服用中で、この頻度でした。
出典: Conen D, et al. J Am Coll Cardiol. 2019;73(9):989-999.(Swiss-AFコホート・横断研究)
症状のない脳梗塞と認知機能低下との関係は、ここではまだ確かめていません。この研究の著者は「問いを提起する」と書くにとどめています。検査を勧めるものではありません。
出典: Friberg L, Rosenqvist M. Eur Heart J. 2018;39(6):453-460./Lin M, et al. Int J Clin Pract. 2021;75(10):e14269./Komatsu Y, et al. Drugs Real World Outcomes. 2022;9(3):437-449./Rivard L, et al. Nat Med. 2026;32(1):297-305.
この試験の対象は平均53.4歳・脳梗塞の起こりやすさを点数にした指標が0〜1という低リスクの人たち——そもそも脳梗塞予防としての抗凝固薬の適応がない層です。著者ら自身が「結果を心房細動の患者全体に外挿すべきではない」と明記しています。また使われた用量は低めに設定されており、標準的な用量や別の抗凝固薬なら結果が違ったかは分からないままだと著者は書いています。