✚ 医知創造ラボ / 認知症×生活習慣病シリーズ 第3弾

難聴と認知症
「補聴器で防げる」の根拠を確かめる

難聴は14の危険因子で最大。ただし「補聴器で防げる」とはまだ言えない。
それでも聞こえを測って補う理由は、認知症の外にある。

1日本の現在地
15.6%
補聴器の所有率
(自己申告の難聴者のうち。全人口では1.7%)
56% / 64%
かかりつけ医/耳鼻科医に相談して
「特に行動する必要はない」と言われた割合
56%
補聴器所有者のうち
「もっと早く入手すべきだった」と答えた割合

出典: JapanTrak 2025(日本補聴器工業会・代表サンプル14,368人)

2関連はどれくらい固いか
研究デザイン認知症との関連
前向きコホート639人
(追跡中央値11.9年)
聴力10デシベル悪化ごとにハザード比1.27(95%CI 1.06–1.50)
メタ解析・横断研究オッズ比 2.42(1.24–4.72)
メタ解析・前向きコホートオッズ比 1.28(1.02–1.59)/アルツハイマー病単独では有意ではない

出典: Lin 2011(Arch Neurol)/Loughrey 2018(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg・36研究20,264人)

人口寄与割合(PAF)は7%で14因子中の最大。ただし集団の指標

PAFは「関連の強さ × その因子を持つ人の多さ」で決まります。難聴は60歳超の65%にあるため、一人あたりの上乗せが控えめでも集団では最大になります。「難聴を治せば認知症が7%減る」という意味ではありません。

出典: Livingston 2024(Lancet・委員会報告)

3では補聴器で防げるのか
ACHIEVE試験(70–84歳・977人・3年)3年間の認知機能変化
補聴器介入群(490人)−0.200(−0.256〜−0.144)
健康教育対照群(487人)−0.202(−0.258〜−0.145)
0.002(−0.077〜0.081)・p=0.96 = 差なし
差がついたのは、事前規定の感度解析だけ

高齢で危険因子の多いARICコホート(238人)では低下が48%小さい(差 0.191、p=0.027)。公募コホート(739人)では差なし。さらに対照群の16.5%が試験外で自ら補聴器を入手していました(公募19.4% / ARIC 7.8%)。

出典: Lin 2023(Lancet・ACHIEVE)

4「補聴器で帳消し」の出どころ
その根拠だった論文は、2024年に撤回されている

英国UK Biobankの解析(Jiang 2023, Lancet Public Health)は、PubMedの出版タイプがRetracted Publicationとなり、撤回通知が Lancet Public Health 2024;9(1):e10 に掲載されています。解析コードの誤りで補聴器の使用群と非使用群のデータが入れ替わっていたと報じられています(撤回通知の本文は未確認)。日本語の紹介記事はいまも残っています。

出典: PubMed の出版タイプ/撤回通知 PMID 38101424

5自覚では、リスクを拾えない
難聴の定義該当した人認知症の人口寄与割合
聴力検査66.1%最大32%(11.0–46.5%)
自己申告37.2%算出できず(リスクと関連せず)

出典: Ishak 2025(JAMA Otolaryngol Head Neck Surg・ARIC-NCS 2,946人・最長8年)。同じ人・同じ期間・同じ手法で、違うのは測り方だけ

6日本のデータと、認知症以外の利得
難聴のある60歳以上1,193人を10年追跡: 聴力10デシベル悪化ごとに認知機能障害のオッズ比1.36(1.21–1.53)。中等度難聴で補聴器を常用している場合は0.54(0.30–1.00)。ただし観察研究で、上限は1.00に接している(Sugiura 2022, Auris Nasus Larynx)
3年間の平均転倒回数は介入群1.45回 対 対照群1.98回、平均差 −0.54(−0.77〜−0.31)=27%の減少。こちらは両方の集団で一貫(Goman 2025, Lancet Public Health・ACHIEVE二次解析)
社会的孤立と孤独感も改善。ただし論文自身が「3年で交流相手が1人多く残った。臨床的に意味のある変化かは不明」と記載(Reed 2025, JAMA Intern Med・ACHIEVE二次解析)
7結局、どうすればよいか
測る
自覚ではリスクを拾えなかった。まず聴力検査を受ける。
使う
目的は認知症予防ではなく、会話と転倒と生活の質のため。
続ける
日本のデータで関連が見えたのは「常に使っている」人だった。
数値の読み方について。ハザード比・オッズ比は「何倍か」を表し、1.00なら差がありません。95%信頼区間が1.00をまたぐ場合は「差があるとは言えない」と扱います。人口寄与割合(PAF)は集団の指標であり、個人の確率ではありません。なお Ishak 2025 には後日「Error in Methods」の正誤表が出ており、本図では論文自身の表現「最大32%」に沿って記載しています。
監修: 今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)/医知創造ラボ
本図は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
聞こえの低下が気になる場合は耳鼻咽喉科・かかりつけ医へ。急に片耳が聞こえなくなった場合は様子を見ずに受診してください。