医知創造ラボ / 認知症×生活習慣病シリーズ #14
多因子介入と認知症
「運動も食事も脳トレも」は、どこまで効くのか
危険因子は重なる。だから対策も束ねる——この考え方は世界中で試されてきました。
だが「認知症の発症そのものを減らせた」試験は、いまのところ一つもありません。
それでも、言えることは残っています。
1束ねて手を打つ、という発想はどこから来たのか
14因子
Lancet 2024 委員会が挙げた
修正できる危険因子の数
45%
その重み付き人口寄与割合の合計

出典: Livingston G, et al. Lancet. 2024;404(10452):572-628.

この「45%」の読み方

これは集団についての人口寄与割合であって、「あなたが生活を変えれば45%減らせる」という個人の確率ではありません。委員会自身が、因子は互いに重なり合うので単純な足し算にはできないと書いています。因子が重なり合っているのなら、対策も同時に複数へ——これが「多因子介入(マルチドメイン介入)」の設計思想です。

25つの大規模試験が、それぞれ違う答えを出した
試験(国・規模・期間)何を測ったか / 結果
FINGER
(フィンランド・1,260人・2年)
認知機能テストの点数
年あたり差 0.022(95%CI 0.002–0.042・p=0.030)=陽性。ただし効果量は小さい
J-MINT
日本・531人・18か月)
認知合成Zスコア
群間差 0.047(95%CI −0.029〜0.124)=差がつかなかった
U.S. POINTER
(米国・2,111人・2年)
全般認知機能の年あたり変化
構造化 0.243 vs 自己流 0.213 SD/年・差 0.029(0.008–0.050・P=.008)。両群とも点数は上がった
preDIVA
(オランダ・3,526人・6年)
認知症の発症(主要評価項目)
HR 0.92(95%CI 0.71–1.19・p=0.54)=差なし
MAPT
(フランス・1,680人・3年)
認知合成Zスコア
3群とも対照と有意差なし(オメガ3単独は 0.011・p=0.812)

出典: Ngandu T, et al. Lancet. 2015;385(9984):2255-63./Sakurai T, et al. Alzheimers Dement. 2024;20(6):3918-3930./Baker LD, et al. JAMA. 2025;334(8):681-691./Moll van Charante EP, et al. Lancet. 2016;388(10046):797-805./Andrieu S, et al. Lancet Neurol. 2017;16(5):377-389.

横並びで「勝ち負け」を比べないでください

5つの試験は対象者が違います(リスクの高い一般高齢者/軽度認知障害の方/座りがちで食事が最適でない方/一般の70〜78歳/記憶の訴えがある70歳以上)。またJ-MINT と U.S. POINTER には「何もしない群」がありません——どちらも対照群に何らかの介入が入っています。

3認知症の発症そのものは、まだ減っていません
5,205
MAPT と preDIVA を統合した
個別データ解析の対象
12
最長の追跡期間
(486人が認知症を発症)
!
この解析で、多因子介入は全体でも、あらかじめ決めたどのサブグループでも、認知症の発症を減らしませんでした。データ駆動のアルゴリズムでも、効果の違う集団は検出されませんでした。
!
脳の画像(アミロイドβ・タウ・海馬体積)も動きませんでした(U.S. POINTER の画像付随研究・983人)。「生活習慣を変えればアミロイドが減る」「脳が若返る」——この試験はそれを直接否定しています。

出典: Coley N, et al. Alzheimers Dement. 2025;21(2):e14472./Harrison TM, et al. JAMA Neurol. 2026;83(6):521-529.

「無効」ではなく「まだ確かめられていない」

認知症になる人が減ったと主要な評価項目で示した試験は、いまのところありません。ただしそれは「効果が無いと証明された」ということではありません。この二つは違います。

4「多ければ多いほど良い」ではありませんでした
最も
強い
運動 + 認知トレーニング(2つ)
SMD 0.26(95%CI 0.10–0.42)
p=0.0011。健康教育と比べた全般認知機能への効果
次点
2
認知トレーニング単独(1つ)
SMD 0.21(95%CI 0.08–0.33)
p=0.00092
束ねる
4
食事 + 運動 + 認知トレーニング + 健康教育(4つ)
SMD 0.14(95%CI 0.02–0.27)
p=0.028。ドメインを増やしても、自動的に大きくはならない

出典: Mendes AJ, et al. Lancet Healthy Longev. 2025;6(9):100762.(109試験・23,010人のネットワークメタ解析/認知機能が保たれている高齢者が対象)

この解析の但し書き

著者は、109試験のうち44試験(40%)でバイアスのリスクが高かったこと、健康教育を対照にした比較では出版バイアスが示唆されたことを明記しています。数値だけを取り出して使えるデータではありません。

5それでも言えること——4つ
1
「多いほど良い」ではない。最も効果が大きかったのは運動+認知トレーニングという2つの組み合わせでした。全部やらないと意味がない、ということではありません。
2
続けられる形にすることが、効いている可能性があります。J-MINT で運動教室に70%以上出席した人は、対照群より 0.080(95%CI 0.001–0.159・p=0.047)点数が良い結果でした。※サブ解析であり、通える人はもともと元気だという交絡は残ります。
3
自己流でも、点数は動いていました。U.S. POINTER では自己流の群でも年あたり 0.213 SD 上がり、伴走がつくとそこにさらに 0.029 が乗る、という構図でした。
4
血圧・血糖・コレステロールを「放置している人」ほど、恩恵が大きい結果でした。未治療または管理不良の血管危険因子がある298人で Zスコア差 0.11(95%CI 0.02–0.20・交互作用 p=0.032)。※サブグループ解析であり、J-MINT の主要評価項目は陰性のままです。

出典: Sakurai T, et al. Alzheimers Dement. 2024;20(6):3918-3930./Baker LD, et al. JAMA. 2025;334(8):681-691./Sugimoto T, et al. Alzheimers Dement. 2025;21(11):e70822.

6では、何から始めるか
体を動かす習慣と、頭を使う習慣を、続けられる形で。数を増やすことより、続くことを優先してよさそうです。
血圧・血糖・コレステロールを、放置したままにしない。数値を指摘されているのに何もしていないなら、そこはかかりつけの先生に相談してください。
痛くなったら休む。種目を変える。相談する。FINGER では有害事象が介入群 7%(対照群 1%)で、最も多かったのは筋骨格系の痛みでした。無理をして続かなくなるのが、いちばん惜しい。
この図は運動の量を指示するものではありません

「週に何回、何分」は一人ひとり違います。持病のある方、関節や心臓に不安のある方は、量を増やす前に必ず主治医にご相談ください。また本図は、いま飲んでいる薬をやめたり減らしたりする根拠にはなりません。

1
束ねて手を打つ発想はFINGER 試験で成功しました。ただし測ったのは認知機能テストの点数で、効果量は小さいものでした。
2
日本の J-MINT は主要評価項目で差がつかず認知症の発症を減らせた試験も、いまのところありません。脳の画像も動きませんでした。
3
それでも言えることは残っています。多いほど良いではない。続く形を選ぶ。放置している数値があるなら、そこから相談する。
この図で扱っていないこと。個別の危険因子(血圧・コレステロール・難聴・糖尿病・喫煙・肥満・飲酒・視力など)の深掘り、抗アミロイド薬との比較、特定の脳トレアプリやサプリメントについては扱っていません。オメガ3脂肪酸の単独摂取は MAPT 試験で完全に陰性でした(0.011・95%CI −0.081〜0.103・p=0.812)。また、本図に挙げた「サブ解析」「サブグループ解析」は、あらかじめ決めた主要な評価項目の結果を置き換えるものではありません。
医知創造ラボ / 認知症×生活習慣病シリーズ 第14弾
本図は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。
運動量を増やすとき、生活習慣の指摘を受けたとき、物忘れが気になるときは、自己判断せず医療機関にご相談ください。