✚ 医知創造ラボ / 認知症×生活習慣病シリーズ 第5弾
喫煙と認知症
「やめたら、間に合うのか」を確かめる
吸っている人は、吸わない人より認知症になりやすい。
そしてやめた人では、その上昇が見られません。ただし、すぐにではありません。
1いま、わかっていること
1
吸っている人は、吸わない人より認知症になりやすい。アルツハイマー型でも、血管性でも、同じ向きの結果が出ています。
2
本数が多い人ほど高くなります。「本数の問題ではない」ということはありません。
3
やめた人では、この上昇が見られません。過去に吸っていた人と、もともと吸わない人とで、差がはっきりしなくなります。
出典: 37の研究をまとめた解析(Zhong 2015, PLoS One)。数字は動画・記事のほうに載せています
2「やめれば元通り」ではありません
ここを取り違えると、話が反対の向きに進んでしまいます。研究が示しているのは「差が見えなくなる」ところまでで、「吸っていなかったことになる」ではありません。
この図でいちばん伝えたい一文
早くやめるほど取り戻せる。ただし、ゼロにはなりません。
3戻るまでには、数年かかる
3年
日本の高齢者(65歳以上)を追った研究では、やめて3年たった人から、吸わない人との差がはっきりしなくなりました。
約7年
米国の中高年を追った研究では、やめてからの年数が長いほどリスクは下がり、吸わない人の水準に近づいて、7年あたりで横ばいになりました。
9年
米国の中年を追った研究では、9年以上前にやめた人では、吸わない人との関連が見られませんでした。
出典: 大崎コホート(Lu 2020)/HRS(Chen 2026)/ARIC(Deal 2020)
この3つを、足したり平均したりはできません
集団も、年齢も、比べている相手も違う研究です。「◯年でゼロになる」という数字は、どこにもありません。3つに共通しているのは「年単位の時間がかかる」ということだけです。だから、やめるのは早いほうがよい——読み取れるのはここまでです。
4やめた直後は、まだ高い
「やめたのに」ではなく「まだ途中」です
米国の中年を追った研究では、やめてから9年たっていない人では、吸わない人よりも認知症が多いままでした。やめた瞬間に切り替わるのではなく、時間をかけて近づいていくという形です。
これは「やめても無駄」という話ではありません。そこまで近づくのに年単位かかるからこそ、1年でも早くやめたほうがよいのです。
5減らすだけでは、足りない
「半分に減らした」は、やめたことにはなりません
本数を減らした人たちを追った研究では、やめた人と同じ結果は確認されていません。減煙は、禁煙までの途中経過としては意味がありますが、ゴールにはなりません。
ただし「減らすと悪化する」という意味でもありません
減らした人の中には、体の調子が悪くなったから減らしたという方が含まれます。研究の作りのうえで、原因と結果が入れ替わっている可能性を消しきれていません。減らしたことを責める材料には使わないでください。
出典: 韓国の健康保険データベース(Jeong 2023, JAMA Netw Open)。参加者の大多数が男性で、女性にそのまま当てはめられるかは分かっていません
6よくある心配
Q
「やめると、頭が働かなくなるのでは?」
米国の中高年を追った研究では、やめた直後に認知機能が落ちることは観察されていません。落ち込んだように感じても、認知症としての変化は見つかっていません。
Q
「太るのが心配です」
禁煙後に体重が大きく増えると、認知症のリスクが下がる利益が見えにくくなる、という報告があります。ただし対処の順番は決まっています——まず禁煙を安定させ、そのあとに体重です。両方を同時に始めて、どちらも続かないのがいちばんもったいない結果です。
Q
「加熱式たばこなら、どうですか?」
加熱式たばこと認知症の関係を調べた研究は、今回さがした範囲では見つかりませんでした。安全性は示されていませんし、危険だと断定できるだけの材料もありません。「わかっていない」が、いまの正確な答えです。
7結局、どうすればよいか
早く
差がはっきりしなくなるまでに、年単位の時間がかかります。先延ばしに、得はありません。
一人でやらない
禁煙外来は保険が使えます。だいたい3か月で、その間の受診は5回です。
順番を守る
体重は、禁煙が安定してからで大丈夫です。まず、たばこを手放すことに集中を。
この図の年数について。3年・約7年・9年は、それぞれ別の国・別の年齢層・別の比べ方をした研究から出た年数です。あなたにこの年数が当てはまる、という意味ではありません。また、ここで挙げた研究はすべて「吸っている人・やめた人を追いかけて数えた」タイプの研究で、くじ引きでどちらかに割り当てて比べた試験ではありません。吸う人は他の要因(血圧・血糖・お酒・運動)も抱えやすいため、たばこだけの影響を完全には切り分けきれていません。とても高い年齢の集団では、たばこの影響が実際より小さく見えることも知られています。
監修: 今村久司(脳神経内科専門医・総合内科専門医)/医知創造ラボ
本図は一般的な医学情報の提供を目的としたもので、個別の診断・治療方針を示すものではありません。
禁煙のお薬や禁煙外来の利用については、担当の先生にご相談ください。すでに服用中のお薬を、自己判断で変えないでください。