✚「予防に毎日」で始めない
その経口補水液、
いま飲む必要ありますか?
熱中症の水分補給を3段階に整理する|内科医・かかりつけ医向け
外来患者指導テンプレート・シリーズ 第34弾
経口補水液は「予防のために毎日飲む物」ではなく「脱水が起きたときの物」です。そして「のどが渇く前に飲む」が正しいかどうかは、運動する人と高齢者で正反対になります。場面で飲み物を変える——外来10分で使える整理を1枚にまとめました。
1
場面を聞く
普段か、汗をかいている最中か、脱水の症状が出ているか
2
相手を見る
運動する成人か、高齢者か で「渇く前に飲む」の可否が変わる
3
持病を確認
腎臓・心臓・糖尿病治療中は経口補水液の前に主治医へ
1まず全体像——場面で飲むものを変える
| 場面 | 飲むもの | 理由 |
| ① | 普段(脱水していない) | 水・麦茶。塩分は食事からとれている |
| ② | 汗をかいている最中 | 塩分の入ったもの。水だけでは体に残らない |
| ③ | 下痢・嘔吐・熱中症の症状で脱水したとき | 経口補水液。病者用食品。ここで初めて使う |
「常備しておく」ではなく、「どの場面で開けるか」を決めておくよう外来で伝える。JAAM熱中症診療ガイドライン2024は、熱中症では水分とともに電解質の喪失があるためナトリウム欠乏性脱水が主な病態であるとしつつ、どのORSが有用かは明確ではないとしている。
外来トーク例「経口補水液、家に常備されてますか?——いいですね。ただあれは“具合が悪くなってから”の飲み物なんです。」
★経口補水液は、「病者用食品」である
🚫 「予防に常備」ではなく、「脱水したときに開ける」
経口補水液は、スポーツドリンクよりナトリウム・カリウムが約3〜4倍多く含まれています。見た目は似ていても、濃さが違う飲み物です。
消費者庁の原文
「経口補水液は、脱水状態でない方が普段の水分補給として飲むものではありません。」——特別用途食品のうち、病者用食品に位置づけられる
外来トーク例「普段は水か麦茶で十分です。汗をびっしょりかいている最中だけ、塩分の入ったものに変えてください。」
2水だけでは、なぜいけないのか
水だけ
飲んでも、尿になって出ていきやすい。血液が薄まるので、体は余分な水を出そうとする
塩分が入っていると
体に水がとどまりやすい。ごく少量の塩分でも差が出ることが確かめられている
📖 患者さんが実感できる形——足がつる機序
汗で塩分が出ていくところに水だけを飲むと、血液の塩分がさらに薄まり、足がつりやすくなる。同じ条件で比べた研究でも、水だけの日はつりやすく、塩分を含む飲料の日はつりにくかった。
Takamata A, et al. Nutrients. 2026;18(12):1846.(若年健常者・軽度脱水) / Lau WY, Kato H, Nosaka K. J Int Soc Sports Nutr. 2021;18(1):22.
★「のどが渇く前に飲む」は、相手によって逆になる
運動・労働する成人
のどが渇いたら飲む、で合っている
渇く前に飲みすぎると、血液の塩分が薄まって具合が悪くなることがある
高齢者
のどの渇きを当てにしない
年齢とともに「渇いた」という感覚が当てにならなくなる
Altieri B, et al. J Endocrinol Invest. 2026;49(1):1-10. / Bhanu C, et al. Age Ageing. 2019;49(1):111-118.
📖 高齢の方が飲んでくれない、本当の理由
知識が足りないから、ではない。地域で暮らす高齢者への面接調査では、「尿失禁への不安と知識の不足が、飲水の重大な障壁だった」と報告されている。トイレが心配だから飲まない——ここに触れないまま水分の大切さを説明しても行動は変わらない。
Bhanu C, et al. Age Ageing. 2019;49(1):111-118.(質的研究)
外来トーク例「のどが渇いたら飲む、はやめましょう。お薬を飲むときと、食事のときに、必ずコップ1杯。それだけ決めてください。夜のトイレが心配なら、控えるのではなく日中に寄せましょう。」
①お薬を飲むときに、必ずコップ1杯
②食事のときに、必ずコップ1杯
③新しい習慣は足さず、すでにある場面に紐づける
④夜のトイレが心配なら、控えず日中に寄せる
★全員にすすめてはいけない
⚠️ 腎臓・心臓・糖尿病の治療中は、飲む前に主治医へ
ナトリウム・カリウム・糖質が多いため、制限のある方には逆に負担になりうる。
消費者庁の原文
「使用前に必ず医師に相談しましょう」
3アラートを待たない——WBGT 31 / 33 / 35
| 暑さ指数(WBGT) | 意味 |
| 31以上 | 「危険」の目安。アラートが出ていなくても外出・運動を控える |
| 33 | 熱中症警戒アラート。いずれかの地点で33に達する予測で発表 |
| 35 | 熱中症特別警戒アラート。全ての地点で35に達する予測等で発表 |
🔗 環境省 熱中症予防情報サイトで、自分の地域の暑さ指数と今日・明日の予測値を確認できる(https://www.wbgt.env.go.jp/)。「アラートが出ていないから大丈夫」は、成り立たない。
4ここまで来たら受診——重症度で線を引く
🩺
その場で対応してよい(I度)
立ちくらみ・こむら返り・大量の発汗で、意識がはっきりしている。涼しい所で安静・冷却・経口補水
🏥
受診する(II度以上)
頭痛・吐き気・倦怠感・力が入らない・判断力が落ちている
🚨
すぐ救急
意識がおかしい・呼びかけへの反応が鈍い・自分で水が飲めない
出典: 日本救急医学会ほか「熱中症診療ガイドライン2024」FRQ4-03(経口補水液)/CQ4-02(早期輸液とORS)/重症度分類/ 消費者庁「ご存じですか? 経口補水液の知識」(特別用途食品)/ 環境省 熱中症予防情報サイト(熱中症警戒アラート・熱中症特別警戒アラートの発表基準)/ Takamata A, et al. Nutrients. 2026;18(12):1846(PMID 42356233)/ Lau WY, Kato H, Nosaka K. J Int Soc Sports Nutr. 2021;18(1):22(PMID 33722257)/ Altieri B, et al. J Endocrinol Invest. 2026;49(1):1-10(PMID 40913680)/ Bhanu C, et al. Age Ageing. 2019;49(1):111-118(PMID 31819953)/ Phung VLH, et al. Environ Health (Wash). 2026;4(1):144-153(PMID 41562042)