医師向け/周術期の脳梗塞

術中の出血・低血圧による分水嶺梗塞に
抗血栓療法は必要か

止血後のアスピリンを、どう判断するか

まず押さえる ─ 分水嶺梗塞は「病因」ではない

分水嶺梗塞は梗塞がどこにあるか(分布)を述べているだけで、なぜ起きたかを述べていません。分水嶺領域に梗塞があることと、原因が純粋な低灌流であることは同義ではありません。

内側分水嶺梗塞
血行力学的破綻と結びつきやすい。内頸動脈・中大脳動脈の狭窄や閉塞が強い
皮質分水嶺梗塞
塞栓の関与が大きい。小皮質梗塞の合併が多い

低灌流によって微小塞栓のwashoutが障害され、両者が相乗的に働くこともある。「分水嶺型だから血栓は関係ない」という推論は成り立たない。

CTでは半分以上を見落とす

48%
MRI拡散強調画像での
両側分水嶺梗塞の検出率
22%
同じ症例をCTで見たときの
検出率
4.1
術中の平均血圧が術前より
10mmHg以上低下した場合

心臓手術後に脳卒中を来した98例の検討。両側分水嶺梗塞例は他のパターンに比べ死亡が17.3倍。単純CTで「はっきりしない」ことは、分水嶺梗塞がないことを意味しない。

急性期の最優先は、止血と灌流の回復

抗血栓薬を投与しても脳血流そのものは回復しない。まず脳血流を低下させている原因を是正する。

項目目安・注意点
止血・循環血液量の回復低血圧と循環血液量減少の是正は推奨クラスⅠ(レベルC-EO)
貧血の補正輸血閾値の目安はヘモグロビン8g/dL。急性周術期脳卒中・活動性出血・循環動態不安定では8〜9g/dL
心拍出量の維持低酸素血症・不整脈を是正し、不要な降圧を中止する
血液希釈目的の容量負荷推奨されない(クラスⅢ:利益なし)

血圧の落とし穴と、昇圧薬

平均動脈圧70mmHgは「予防」の値
周術期脳卒中の予防として提案された値であり、すでに発症した梗塞に対する一律の治療目標ではない。病型特異的な血圧目標は存在しない。
誘発性高血圧のアウトカム結果
7日目の神経学的改善良好だった
90日の機能予後改善しなかった
追跡MRIでの脳出血昇圧群で多い(6.6% 対 0%)

ESO血圧管理ガイドライン2025年アップデートは、再灌流療法を受けていない神経学的増悪例への昇圧薬のルーチン使用を推奨していない。

抗血栓療法 ─ やること・やらないこと

治療位置づけ
アスピリン単剤活動性出血中は保留。止血後は開始を検討する
DAPTルーチンには行わない
治療量の抗凝固療法低灌流そのものには不要
心房細動などへの抗凝固独立した適応があれば別途判断する
静脈血栓予防量脳梗塞治療とは別問題として扱う

時期で分けて考える

STEP 1
活動性出血中
抗血栓薬は投与しない。止血・循環再建に集中する
STEP 2
止血後
塞栓源と動脈硬化性病変を評価し、アスピリン単剤を検討
STEP 3
長期
生涯継続の要否を再評価する(利益は不明であり、不要と証明されたわけではない)
主幹動脈閉塞があれば、術後でも血栓回収療法を検討する
術後であること・出血リスクがあることだけを理由に機械的血栓回収療法を除外しない。なお静注血栓溶解の手術部位出血は、手術後1〜10日で14.3%、11〜90日で2.4%。

出典:Powers WJ, et al. Stroke. 2019;50(12):e344-e418./Benesch C, et al. Circulation. 2021;143(19):e923-e946./Gottesman RF, et al. Stroke. 2006;37(9):2306-2311./Voelkel N, et al. Stroke. 2017;48(11):3034-3039./Sandset EC, et al. Eur Stroke J. 2026;11(5)./Liu C, et al. Cell Rep Med. 2026;7(2):102596.
本図は医療従事者向けの一般的な医学情報であり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。

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