医療者向け・一次文献ベース
高齢者のてんかん重積、
どこで麻酔薬・挿管に踏み切るか
分岐の軸は「年齢」でも「入院前ADL」でもなく、発作型 × 意識レベル
まず、実際の管理はどうなっているか
難治例の 52.7% が良好転帰(mRS 0-2、または入院前と比べ悪化なし)。
出典:Beuchat I, et al. Neurology. 2022(SENSEレジストリ・中欧3か国9施設)
病型ごとに、麻酔薬の位置づけは違う
| 重積の病型 | 持続静注麻酔薬の位置づけ |
| けいれん性の難治性重積 | 正当化される |
| subtle SE(昏睡+発作性脳波) | 正当化される |
| NCSE with coma(昏睡を伴う) | 個別化して判断 |
| NCSE without coma(意識が保たれる) | 役割は乏しい |
| 焦点運動発作性重積・EPC | 役割は乏しい |
意識が保たれた病型では、転帰を決めるのは発作の持続そのものより病因と併存症。
出典:Fisch U, et al. Front Neurol. 2026(スコーピングレビュー)
予後を分けていたのは意識レベル
両側強直間代発作のみで終わった症例では死亡はゼロ。年齢中央値69歳・成人221例。
出典:Leitinger M, et al. Epilepsia. 2019(人口ベース研究)
高齢・ADL低下は差し控えの理由になるか
治療制限の決定
35.7% vs 12%
入院前に機能障害があった群では、
治療制限が約3倍多く行われた
1年後に機能が悪化しなかった割合
42.9% vs 44.1%
それでも1年後の結果は
ほぼ同じだった
| 1年後の転帰不良と関連した因子 | オッズ比 |
| 既存の、最終的に致死的となる併存症 | 2.92 |
| 脳の器質的障害が重積の原因 | 2.75 |
| 59歳超 | 2.36 |
| 難治性のけいれん性重積 | 2.19 |
| 入室時の臓器不全(LODスコア3以上) | 2.08 |
| 入院前の機能障害 = 有意差なし | 0.61 |
差し控えの根拠に最もよく使われる因子が、最も予測力が乏しかった。
出典:Vieille T, et al. Epilepsy Behav. 2023(けいれん性重積でICU入室した成人499例)
踏み切る前に確認する3つのゲート
1本当に非けいれん性重積か
Salzburg基準の陽性的中率は34%(感度94%/特異度77%)。基準を満たしても3例に2例はNCSEではない。偽陽性の多くは脳症・発作後状態。鎮静で脳症を覆い隠さない。
2病因は治療しうるものか
病因別の死亡率は自己免疫性脳炎 14.3%/てんかん 17.2% に対し脳腫瘍 63.6%。適切なASMで58.5%が改善している。
3上流を尽くしたか
第1選択ベンゾジアゼピンの十分量投与は良好転帰のオッズ比2.5。ガイドライン逸脱は難治性への進展と強く関連。最大のレバーは麻酔薬ではなく上流にある。
導入すると決めた後の4原則
① 遅らせない
難治性と確定した後の導入遅延は、一貫して転帰不良と関連する
② 目標は発作停止
非低酸素性RSEで burst suppression の上乗せ効果は示されていない
③ 期間は最短に
24〜48時間は専門家合意にすぎず、延長は感染・離脱時発作を増やす
④ 持続脳波で離脱
維持期・離脱期を通じた脳波監視が必須とされる
⏱ 期間の最短化は、そのまま廃用対策である
集中治療関連筋力低下(ICU-AW)は長期不動化と高齢が危険因子で、四肢近位筋と呼吸筋を侵し、退室後2年まで持続しうる。予防の要は早期離床。発作を止めることと廃用を防ぐことは対立しない。
また、神経集中治療で事前指示を持つ患者は中央値39%にとどまる。重積が起きてからでは遅く、平時の外来がACPの場になる。
出典(すべてPubMed収載・メタデータ照合済み):
Beuchat I, et al. Neurology. 2022;99(16):e1824-e1834./
Fisch U, et al. Front Neurol. 2026;17:1805775./
Leitinger M, et al. Epilepsia. 2019;60(1):53-62./
Vieille T, et al. Epilepsy Behav. 2023;141:109083./
Ulvin LB, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2024;11(10):2685-2695./
Uçan Tokuç FE, et al. Neurol Int. 2025;17(2):29./
Hermans G, Van den Berghe G. Crit Care. 2015;19(1):274./
Sutter R, et al. Crit Care Med. 2020;48(8):1188-1195.
※ 引用研究の大半は観察研究であり、難治性重積の無作為化比較試験はほとんど存在しない。
薬剤の用量・投与速度は各施設のプロトコルに従うこと。本図は診療方針を保証するものではない。
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