医療者向け臨床サマリー

チアミン(ビタミンB1)欠乏症
「脚気は過去の病気」は誤り

日常診療で誰が危ないのか|チアミン欠乏症シリーズ第1回

実測されている欠乏の頻度

36%
終末期がん(緩和ケア入院)が欠乏
85/234例・Sato 2026
11.5%
維持血液透析患者が欠乏
113名中・Yang 2025
26.44%
高齢入院退役軍人(AUD除外)で血漿低値
Mates 2026
アルコール多飲歴がない患者でも、日常の臨床現場で欠乏は実測されている

現代のチアミン欠乏:疑うべきハイリスク集団

① 消化管・減量術後
  • 13研究1,036例が集積/最多誘因は「術後嘔吐」
  • 減量手術コホートは平均26〜50歳と若年
  • 十二指腸〜近位空腸を含む術式が高リスク
② 維持血液透析(ESRD)
  • 食事摂取低下・吸収障害・異化亢進
  • ダイアライザーによるクリアランスが関与
③ 終末期がん・緩和ケア
  • 血清アルブミン低値(<3.0 g/dL)と有意に関連
  • 調整オッズ比 2.05(95%CI 1.10〜3.90)
④ 妊娠悪阻・長期絶食・TPN
  • 数日から数週間の嘔吐・食事摂取不良
  • 悪性腫瘍や神経性やせ症など多様な背景

なぜ数週間で破綻するのか? 機序と酵素系

貯蔵の限界
数十mg・数週間分
  • 出典により25〜30 mg/2〜3週間、約18日など数値が異なる(一つに丸めない)
  • 腸内細菌による産生は2%未満
  • 重症患者では72時間以内に進行しうる
4つのTPP依存性酵素系
  • PDC(ピルビン酸脱水素酵素複合体)
  • α-KGDHC(α-ケトグルタル酸脱水素酵素複合体)
  • トランスケトラーゼ
  • BCKDH(分岐鎖α-ケト酸脱水素酵素複合体)
代謝停止
→
乳酸アシドーシス+フリーラジカル蓄積
→
とくに脳で毒性を発揮

臨床現場での鉄則(クリニカル・パール)

「ブドウ糖より先にチアミン」の通説に過度にとらわれない
低血糖の治療をチアミン投与のために遅らせてはならない。正常血糖への回復後、または同時に速やかにチアミンを投与する。
高リスク患者では検査結果を待たずに経験的補充を開始する
血中チアミン測定には日数がかかる。疑った時点で直ちに補充を行う。
出典:Sato R, et al. BMJ Support Palliat Care. 2026(PMID 41997716)/Yang B, et al. Front Nutr. 2025(PMID 40438344)/Mates EA, et al. Diseases. 2026(PMID 42645083)/Abu-Qasem H, et al. Front Surg. 2026(PMID 42453365)/詳細は本編ブログ記事の参考文献一覧を参照
医知創造ラボ | 監修:脳神経内科専門医 今村久司