医療者向け臨床サマリー

原因不明の乳酸アシドーシスを見たら
脚気の見つけ方と検査の限界

衝心脚気・消化器型脚気の見つけ方と、血中チアミン検査の限界|チアミン欠乏症シリーズ第2回

脚気は単一の像にとどまらない:5つの病型

乾性脚気
感覚運動優位の軸索性多発神経炎。sural-sparingを欠く。
湿性脚気
高拍出性心不全。下肢浮腫。
衝心脚気
劇症型。難治性ショックと乳酸アシドーシス。
消化器型脚気
急性腹症・腸間膜虚血と誤認。
乳児脚気
浮腫を欠く。多呼吸・肺高血圧。
教科書の典型像を待つと、診断と治療が遅れる。

病型別の落とし穴

病型誤認されやすい疾患見逃さないポイント
湿性脚気収縮不全型の心不全CI 4.0以上の高拍出状態。EFは低下せずむしろ過収縮(EF 85%等)を示すことがある。
衝心脚気敗血症性ショック非敗血症・非飲酒でも乳酸値23 mmol/Lに達する循環虚脱。チアミン単回静注で数分〜数時間の劇的反応。
消化器型脚気急性腹症・腸間膜虚血試験開腹に至っても病変なし。乳酸14.4 mmol/L、静注で数時間以内に反応。
乾性脚気Guillain-Barré症候群3週間以上の緩徐な経過、sural-sparingの欠如、髄液蛋白正常がGBSと分ける鍵。

血中チアミンは信頼できる指標ではない

体内状態と乖離
  • 血漿チアミンは体内のごく一部にすぎず、細胞内の状態を反映しない
  • 細胞内チアミンの基準法は赤血球TDPやETKA
人種差の寄与が10倍以上
  • 全血TDPのばらつきは、診断名より人種による方が大きい
  • 基準範囲・カットオフに国際的合意がない
結果が遅れて届く
  • 外注検査となることが多く、結果は遅れて届く
  • 特異度も欠く
GBSより脚気を示唆
  • 3週間以上の緩徐な経過
  • 低血圧・頻脈・体液過剰・乳酸高値の合併

「結果を待たない」診断的治療

STEP 1疑う
原因不明の乳酸アシドーシス・難治性ショック
→
STEP 2結果を待たずに静注
経験的にチアミンを投与
→
STEP 3反応で確定診断
数分〜数時間の劇的改善
安全性は高い
チアミン100 mgボーラス静注を受けた989例で、重大な反応はかゆみ1例のみ。日本のアリナミンF注の添付文書でも、ウェルニッケ脳症・脚気衝心は正式な適応症。
原因不明の乳酸アシドーシス+昇圧薬に反応しないショック
検査結果を待つと致命的になりうる。疑った時点で、安全な診断的静注へ踏み切る。
具体的な投与量プロトコル・経路の使い分け・マグネシウム補正は次回で扱います。
出典:Dabar G, et al.(衝心脚気の乳酸・チアミン反応)/Vu TND, et al. Mayo Clin Proc Innov Qual Outcomes. 2019(PMID 31993570)/Lei Y, et al. Medicine (Baltimore). 2018(PMID 29489643)/詳細は本編ブログ記事の参考文献一覧を参照
医知創造ラボ | 監修:脳神経内科専門医 今村久司